森の奥へ進むと、複数の白の塊が視界に入った。
 ひー、ふー、みー、よー、いー、むー、なー、やー、ホワイトラビットが八匹!
 想定より数が多いことに、思わず頬が緩み、いい戦闘経験になるだろうと、わくわくする。
 立ち止まったテオ兄さんたちに、声を掛ける。
 心なしか声が高くなった。

「団体ですね」
「数が多いね。間引きするかい」
「いえ、大丈夫です。お二人とも、手出しは無用です」
「おいっ」

 ニコライの呼び掛けを無視し、魔力循環を高める。
 火矢の同時展開は、魔力値が足りずまだできない。だが、連射は可能だ。
 視界にホワイトラビットを捉え、『灯火』を連射する。

「チッ、初級魔法であの威力はなんだ。あの精度、的確に急所を射抜いてやがる。化物だぞ、テオ!」
「僕も驚いているよ。ホワイトラビットは弱い魔物だけれど、素早いはずなんだ」
「実戦経験ないんだろ。あの動き見てみろ! 慣れてやがるぞ」
「ないはずなんだけどね。はははっはっ……」

 テオ兄さんの乾いた笑いが背後から聞こえるが、今はホワイトラビットの団体に集中する。


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 Lv2になりました

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 ホワイトラビットを二匹倒したところで、頭にLvUPが流れる。
 残りの六匹を仕留めた後、テオ兄さんに報告する。

「テオ兄さん、レベルが上がったようです」
「それはよかったね、僕はなにもしていないけどね」

 呆気なく終わった戦闘に、テオ兄さんが苦笑いする。
 その顔をみて、少し調子に乗りすぎたかと反省する。
 まぁせっかくの機会だったのだ。試してみたいことが実戦でき満足ではある。
 テオ兄さんはいいとして、あとはニコライだ。
 集めたホワイトラビットを魔法鞄へ収納しようとするテオ兄さんを止め、ニコライへ向く。

「ニコライ様、どうぞ。お付合いいただいたお礼です」
「可愛くねぇな」
「平たく言えば、口止め料です。ほぼ無傷で仕留めましたから買取額も悪くはないはずです」
「ったく、可愛くねぇぞ、チビ」
「お褒めいただき光栄です」

 この人、口や見た目の態度は悪いが、なぜか親近感が湧くんだよね。
 んー……。なんだろう。人を惹きつける魅力があるんだと思う。
 短時間しか接していないのに、懐に入っている錯覚があるんだよね。
 不思議に思っていると、ニコライが俺の頭を掴んだ。

「で、チビ、お前いつの間にMP回復薬を飲んだんだ」
「えっ?」
「あっ! ジークの魔法が凄すぎて忘れていたよ」
「何を隠しているんだ。ありえねぇーんだよ。Lv1のお前が魔法を連発するなんてな」

 おぉーー。MP値隠蔽していたのを忘れてた!
 うわぁ、やべぇーーーー。初めての戦闘で、舞い上がっていたよ。
 とりあえず、テオ兄さんは、俺の魔力値の異常を認識している。
 だが、MP値は隠蔽して普通なのだ。
 MP値も異常値だったことにするか。いやそうなると、鑑定の際にMP値の話題が上がらなかったことを疑問に思うんじゃないか。
 万事休す!
 とぼけるしかねぇーーーー。


「どういうことでしょう?」
「はぁーー!? チビ、お前自身のことだろう」
「MP値は普通ですよ。なんなら鑑定していただいても結構です。だけど『灯火』ならまだ撃てますよ」
「なんだとっ!」

 ニコライは、俺の回答に愕然と立ちつくす。
 額面通りに受け取ってくれたようである。
 あぁー、素直ですね。俺が能力を隠さず、行動したことが吉と出たようだ。
 ここだけとぼけるなんて、思ってもいないんだろう。

「MP回復が早いのか……。いやそれにしても早すぎる。魔力値の異常値が影響しているのかも……」

 顎に手をあて、考え込むテオ兄さん。
 おぅ! こちらもいい具合に勘違いしてくれた!
 若干、申し訳なくも思うけれど、死活問題なので、許してください。
 俺が心の奥底で謝罪していると、遠方から複数の話し声が聞こえてきた。
 独特なニュアンスの話し方に、人間ではないと、判断する。
 俺がそれを伝える前に、ニコライが、腰にある長剣を抜いた。
 先ほどとは一変し、真剣な表情で、辺りの気配を探り、戦闘態勢に入っていた。

「テオ、ゴブリンが複数、集まってやがる。チッ、白の森だと油断した。チビはそこで待機だ」
「はい」

 俺は素直に返事をし、邪魔にならない場所へ身を隠す。
 今回の戦闘には、参加しません。
 現役の冒険者の戦闘を間近で見るチャンスだ。そりゃもう、傍観に徹します。
 テオ兄さんも、短剣を構え、戦闘態勢に入った。
 数分もしないうちに、緑の団体のおでましです。
 おぅ、ゴブリンだ。
 魔物図鑑で姿絵は確認したが、本物は気持ち悪さが倍増だ。
 人型の魔物で、特徴的な緑の肌に、耳は細長く、鼻と口はでかいが均整がとれていない。
 小鬼との和名も納得できる容貌だ。
 だが、なによりも臭いが酷い。
 この距離でこの異臭、近づくにつれ、思わず、一歩後退してしまった。
 くっ、なぜか負けた感じがするのは、なぜだ。

 ニコライが、素早くゴブリンとの距離を縮め、斬りつける。
 すごい! その一言に尽きる。
 太刀筋に乱れがなく、無駄な動きが一切ない。
 ゴブリンを両断までとはいかないが、一振りで致命傷を負わせる技術に息を呑む。
 将来有望な冒険者であるとのヘルプ機能の情報に間違いはない。
 その圧倒的な強者の姿に、ゴブリンたちが戸惑っている。
 その隙を逃さず、ニコライは次々とゴブリンを倒していく。
 その真横で、テオ兄さんが、短剣を手にゴブリンに近づくと、素早く首の辺りを数度斬りつけて、倒す。
 その手腕は鮮やかだ。
 テオ兄さん、動きが忍者みてぇーー。
 あらかた片付けた後、ニコライがテオ兄さんに声をかけた。

「テオ、他に敵はいるか」
「いいえ、この団体だけのようです」
「俺が四、テオが二だ」
「了解」

 ニコライが指示すると、テオ兄さんが消えた。
 いや背後に回り、ニコライの補助に入りつつ、敵と交わる。
 連携プレーが様になっている。
 すると、二匹のゴブリンが、こちらへ方向転換する。

「ギャッギャギャ、グギャ(あの小さいの、くう)」

 うわぁーー。俺、ゴブリンの言葉理解できてるよ。
 嬉しくねぇ。しかも俺、食用かよ!
 まぁ、味見される前に、殺りますけどね。

『灯火』

 レベルが上がり、魔力値が倍になったので、二本の火矢を同時に展開し、二匹のゴブリンへ撃つ。
「「ギャッ」」と、二匹のゴブリンに命中し、同時に絶命させた。


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 Lv3になりました。

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 とんだ儲けもんだ。