「テオ兄さん、ぼくは、まだ誰にもこのことは話していません」
「ジーク、このことは内密に……」
「はい、わかっています。ぼくの希望は、レベル上げです。協力してください」
「それなら近く『白狩り』が行われる。本来なら四歳の誕生日だが、父様が、三歳の誕生日を過ぎたら行うと宣言していた。アル兄さんも僕も協力する予定だよ」
「テオ兄さん、ぼくが三歳になるまでには、あと三ヶ月と少しあります。時間は待ってくれません」
「いや、だが……」
「ぼくは強くなりたい。もうあのような思いは嫌です」
「ジーク……。だけど、レベルを上げるにも魔物を討伐しなければならない。僕たちは魔物を瀕死状態にできるほどの加減は持ち合わせてはいない。それに止めを刺すにも武器が必要だ」
「戦闘スキルはありませんが、火魔法は使えます『灯火』」

 指先に小さな火を出し、テオ兄さんへ見せる。
 魔力制御で、火の大きさ、熱さ、持続ができるようになった。

「火魔法?! いつの間に」
「ぼくの魔力値が異常値であることを知っていますよね」
「なんの話だか……」
「『お属初め』の時に、テオ兄さん、ぼくの鑑定結果を聞いたのでしょう」
「記憶があるのかい?!」
「まさか! 赤ん坊ですよ」
「いや、今もそう変わらないと思うのだが……」
「マリー姉様が、以前話していたんですよ。『お属初め』の時にテオ兄さんと二人で、ぼくの鑑定結果を盗み聞きしたと、ね」
「姉様には、『報告』の魔法は失敗したと伝えたよ」
「はい。マリー姉様は、ぼくの鑑定結果を知りません。でもその反応は、テオ兄さんは知っていますよね」

 俺の発言に、テオ兄さんは、言葉を詰まらせる。
 しばらくして、一度大きく息を吐くと、俺を見つめ切り出した。

「ジーク、侍女たちが噂をしていたよ。『ジークベルト様は神童だ』とね。最近は流暢に言葉を話して、難しい本も読んでいるようだね」
「ぼくは、他の子供より、成長が早いだけですよ。珍しくはありますが、いないわけではありませんよね」
「そうだね、いなくはないね。ただ、ここまで対等に話せて、駆け引きまでする二歳児を僕は聞いたことはないよ」
「それは、テオ兄さんの前だけですよ。交渉相手がただ成長の早い幼児では、相手にしてもらえないじゃないですか。それに、ぼくは、テオ兄さんの秘密を知っています。最大限それを使うのは、交渉では当たり前のことです」
「交渉ね」
「交渉ですよ」

 互いに視線を合わせ、相手の動向を窺い見る。
 んー。あとひと押しかな。
 ここは対等な関係を築かないとね。

「ぼくだけ秘密を知っているのは、不公平ですから、魔力値が異常で、Lv1で魔法が使えて、対等に会話ができ、難読な本も読める。他の大人には、神童と呼ばせて隠れ蓑にする二歳児なんです。これがぼくの秘密です。ぼくは、Lv2になれば満足です。その間だけお付合いください」
「わかったよ。第三週の二日に出掛けよう。ただし、ニコライの手は借りない。二人で討伐に行く。狙いはホワイトラビットだ」
「わかりました。ありがとう、テオ兄さん」

 テオ兄さんは、あきらめたかのように視線を外し、不承不承頷いた。
 俺は笑顔で答え、内心では、ガッツポーズを決めた。

 当初の予定通りホワイトラビット狩りとなった。
 ホワイトラビットは、『白狩り』で最初に戦う魔物だ。
『白狩り』とは、貴族の子が初めてのレベル上げをする行事である。
 貴族は、四歳を過ぎると魔法の特訓が始まる。
 だが、魔法スキルの取得は、魔力値が関係するため、平均的な初期値ではどんなに修練しても取得できないのだ。
 そのため『白狩り』で、ある程度のレベルを上げ、魔法スキルの取得ができる状況にする。
 ホワイトラビットは、魔物ではあるが、素早いだけで、非常に弱く、失敗しても、怪我ですむのだ。

「ジークは、いい性格をしているんだな。気づかなかったよ」
「褒めていただきありがとうございます」
「とんだ二歳児だよ」
「ぼく、テオ兄さんとは、とても仲良くできそうです」
「僕は、これからのことを考えると頭が痛いよ」

 テオバルトは、そっと天を仰いだのだった。