「ねぇジーク、内緒だけど」
「うー??(なんでしょう)」

 母リアのそばまで辿りつき、ただいま休憩中です。
 つたい歩きは体力を消耗します。
 侍女たちはお茶の用意で、今は母上と俺しか部屋にいません。

「あなたには、自由に生きて欲しい。貴族であることに囚われないで、自由に羽ばたいて欲しいの」
「まんーま、うぅ!(母上、もちろんそのつもりです)」
「そう。わかってくれるのね。これは母としての助言よ。あなたはこれから多くの出来事を経験するでしょう。その中には理不尽な事や不条理な事もあります。判断を間違えることもあるでしょう。でもその判断を後悔することはしないで。あなたはその時の最善を選択したのだから。前を向きなさいジーク。そして誰よりも強く優しくありなさい」
「うぅ(わかりました)」
「私の愛しい子、私はいつでもどんな時もあなたの味方です」
「まんーま、うぅ??(母上、どうしたのですか)」

 母リアは、感極まった様子で、俺を強く抱きしめた。
 今までも「内緒ね……」と話し、母上の身の上や父上との馴れ初め、俺に対する渇望、この世界の価値観などを教えてくれた。
 話が終わると抱きしめる。このパターンが定番だった。
 ただ今日は様子が違ったように見えた。

 ふと父上もそうだが、母上のステータスを『鑑定眼』で見たことがないと思った。
 いまさらMP50を消費して確認する必要もないし、鑑定で魔属性やLvは把握ができている。
 母上の魔属性は、光と水であり、Lv18。二属性適応は平均で、Lvは平均より少し高いが、貴族では無難なのだ。
 叔父ヴィリバルトのようなリアルチートはそうそういないし、今は魔法の修練が大事だ。
 取得した光魔法と生活魔法のスキルLv上げに、全MPを使用中だ。
 正直、他の魔法を使用したいのも山々だが、MPが100しかない現状で手を出すのはどうかとの結論に至った。
 MP10が初期値であることからすれば、贅沢な悩みなんですけどね。
 Lv2になれば、ステ値が上がるため、この悩みもほぼ解決する。
 俺には基本値MAXUP+10の『成長促進』がある。
 おそらくMPと魔力値は極稀の+100になると予想している。
 魔物退治はやくしたいな。

 侍女たちが部屋に戻ってきた。
 母リアの腕から解放され、顔を覗くが普段通りの美しい母上だった。
 気のせいかと安堵し、ソファに座りなおす。ここからは美味しいお茶タイムだ。俺は飲めないけどね。

「奥様、今日は北国アイリスより仕入れました紅茶でございます」
「アイリスの紅茶は大好きよ。でも手に入れづらいのではなくて」
「旦那様が奥様のためにお取り寄せをされました」
「ギルにお礼を言わないといけないわ」
「内密にとのことです」
「まぁ、すごく喜んでいたと伝えてくれる」
「もちろんです」

 頭上では、いつものまったり会話が続く。
 やはり、俺の気のせいだったようだ。
 気持ちを切り替え、貴重な情報源である母上と侍女の会話に耳を傾けつつ、効率的な歩行訓練に知恵を絞るのだった。
 俺は、この選択を大後悔することになる。

 もうすぐ俺は一歳の誕生日を迎える。