美しく輝く光が、国王の寝室に降り注ぎ、周囲の者たちは息をのんだ。
まるで幻想的な輝きに包まれたかのようだった。
エリーアスの手元には、その役目を終えたガラス石が残されていた。
「近づくな」
光が収まると同時に、国王の寝室に近づく近衛騎士たちを、エリーアスは厳格な声で呼び止めた
「私が、国王の容体を確認する。何人たりとも寝室に入ることは許さん」
「しかし、エリーアス殿下の御身に何かあれば」
エリーアスは臣下の声を遮るように、威信に満ちた声で言った。
「心配することはない。私が国王の容体を確認し、必要な措置を講じる。私とルイスには、精霊の加護が付いたこのリボンがある」
エリーアスが胸元の金色のリボンを指すと、国王の寝室前で待機していた臣下たちから、「なんと!」と言った感嘆の声が上がった。
精霊の加護は非常に稀なものであり、それを所有することは非常に特別なことである。
エリーアスとルイスがそのような加護を受けていることは、彼らが非常に強い力を持っていることを示していた。
「マティアスは、競技場に入ったか」
「はい。つつがなく」
宰相である男性が冷静な声で、周囲の騒々しい状況をよそにエリーアスの問いかけに答えた。
「トビアス兄上も競技場か」
「はい。トビアス殿下は、ユリアーナ殿下を伴って会場入りしております」
「そうか。宰相、あとは頼んだ」
エリーアスの言葉に、宰相は静かに頭を下げ、深々と臣下の礼をとりました。そして、彼は威厳を持ってエリーアスの前に道を開けた。
エリーアスはそれを横目に見ながら、「ルイス行くよ」と、従者のルイスに声をかけた。彼の背後をルイスが続き、ふたりは国王の寝室へ足を踏み入れた。
国王の寝室は静寂に包まれ、重厚な雰囲気が漂っていた。壁には高価な絵画が飾られ、床には柔らかい絨毯が敷かれており、その雰囲気にそぐわない禍々しい魔道具が、ベッドの横の棚に置かれていた。その魔道具は黒く光る石でできており、古い呪文のような文字が刻まれていた。
「エリーアス殿下」
「ルイス、危険だからさわってはいけないよ。ヴィリバルト殿の話によると、一時的に止まっているだけだそうだ。持ち出すには、この白い布をかけて、布が黒くなるのを待つしかない」
無防備に魔道具に近づこうとするルイスに、エリーアスが強く言い聞かせるように注意した。それに対して、ルイスは「はい」と神妙な顔で返事をする。
エリーアスは白い布を慎重に魔道具にかけ、ほっとして息を吐いた。彼の顔から緊張が解け、安堵の表情が浮かんだ。ルイスからも安堵のため息が漏れていた。彼もまた、エリーアスと同様に緊張が解けた様子だった。
「父上、エリーアスが参りました」
エリーアスは、寝台の上で皮と骨だけの痛ましい姿となり、苦しみに顔を歪める国王に声をかけた。
彼の声には、少しの同情と軽蔑が込められており、国王への憐れみと嫌悪が混じり合っていた。国王は、その声に反応することもなく、ただ苦しみ続けていた。
すると、突然、国王の体から細く白い光が現れた。その光はエリーアスを貫ぬき弾けるように消えた。
「エリーアス殿下!」
ルイスがエリーアスに駆け寄ると、彼は絶望に顔を染め、驚きと恐怖で身を震わせると膝をついた。
そして寝台の上にいる国王に向けて、軽蔑の視線を向ける。彼の口からは、冷たく鋭い声が漏れた。
「何ということだ。これが『王家の真実』だと」
肩を振るわせ怒りを抑えるエリーアスの姿を前にルイスは声をかけることができない。彼はただ、エリーアスの横で立ち尽くし、彼の苦しみを見守っていた。すると、エリーアスは突然立ち上がり、寝台の上にいる国王に向かって歩み寄った。彼の口からは、激しい怒りがこみ上げるような声が漏れた。
「父上、あなたの勝手な判断により、エスタニア王国は、白狼の加護を失うでしょう」
国王は、その言葉に反応することもなく、ただ苦しみ続けていた。
エリーアスは、拳を強く握り、怒りを抑えることができずにいた。彼の目からは、憤りの涙がこぼれ落ちる。
ルイスは、彼の背後で深く臣下の礼をとった。