「叔父様、陛下の書簡にはなんと」
テオ兄さんが堅い表情をして、ヴィリー叔父さんに尋ねた。
「テオ、顔が怖いよ。ジークが怯えているじゃないか」
「誤魔化さないでください。表面化で叔父様が動いているのを私もジークも知っているのです」
テオ兄さんの圧に、ヴィリー叔父さんは目を丸くするも、その成長を喜ぶかのように微笑んだ。
「まぁ、簡単に言えば、アーベル家の他国介入について、自国は一切関与しないってことだよ」
「そうですか」
叔父の回答に納得したのか、テオ兄さんの圧が弱まる。
俺は「ふぅ」と、そっと息を吐いた。間に挟まれている俺は、気が気でなかった。
テオ兄さんが本気で切れたら、大変なんだからね。気をつけてほしいよ。
俺の心配をよそに、ヴィリー叔父さんがぶっこんだ。
「それで、極秘で兄さんから依頼されていた『ザムカイト』の件は、目星がついたのかな」
「叔父様!」
テオ兄さんが、咎めるように叔父を非難する声を出し、俺の様子を窺った。
あっ、俺に聞かれたらまずいやつ。作戦AとかBとか言ってたあの件ですね。
それにしても、『ザムカイト』って、変な名称だな。
《ザムカイトとは、世界的にも有名な裏組織です》
あっ、そうなんだ。
裏組織って、なんか危険な臭いがするけど。
《ザムカイトは血族で構成され、高い技術と能力で世界各地で活動しています。主な活動は、秘密裏での依頼が多く、その半数が暗殺や密狩など、犯罪と関連があります》
そうなんだ。だから、父上たちが、俺を遠ざけようとしてたんだね。
俺はヘルプ機能から情報を得つつ、気の毒そうにテオ兄さんを見た。
叔父の突然の発言に、なにかを察したテオ兄さんが、口調を強めてヴィリー叔父さんに尋ねた。
「なにをしたのですか」
「少しね、懐かしい魔法色を見つけてね」
悪戯心に満ちた表情で答える叔父に、テオ兄さんが、片手を額にあてながら、「なにをしたのですか」と再度尋ね、ヴィリー叔父さんを見上げる。
「彼らが作成した魔道具を壊して、あっ、これはアルがね。私の周囲を探る者がいたから、ちょっとしたまじないをかけたんだ」
悪気なく話し出した叔父が、途中でなにかを思い出したのか、言葉を切る。
そして、あらぬ方向を見ながら、「それが、ちょっと失敗してね。関連する誓約魔書を切ったみたい」と、気まずそうに告げた。
「なにをしているんですか!」
テオ兄さんの怒声が、部屋に響く。
「国際問題となったらどうするのです! まさかっ!」
「その、まさかだね。私もいま気づいたよ」
叔父には珍しく、歯切れが悪い。
「どうするのです。現にもう各国を巻き込んでいますよ」
「いや、でも彼らにとっては、帝国の鎖から抜け出せてよかったのでは。現に行方をくらましたようだし」
えっ、おいおい。
それってさっき、殿下が報告しにきた帝国の選手のことじゃ。
「もともとザムカイトと帝国は、繋がりがあったからね。それが密となり表立ったのが三年前。まさか帝国の代表として、ザムカイトの者が出場するとは思いもしなかったよ」
当時の様子を思い出すかのように叔父が告げ、「おそらく、誓約魔書が切れたことで自由になったんだろうね」と、言った。
「だからと言って、他国の誓約魔書に関与するなんて……。父様にはこのことは」
「それとなく」
「してないんですね。すぐに私が報告をします。他に隠していることは?」
「ありすぎて、わからないなぁ」
あっ、テオ兄さんの顔が能面となった。
「叔父様とは、じっくり話し合う機会が必要なようですね」
「テオは、怖いね、ジーク」
えっ、そこで俺を巻き込まないでください。
二次被害に遭う前に、俺の心情を伝える。
「俺もヴィリー叔父さんが、悪いと思います」
「だそうですよ。叔父様」
テオ兄さんが、妖艶に微笑んだ。
ジリジリと迫る圧に、ふたりの間にいる俺は気づいた。
心情を伝える前に、席を外すのが正解だった。そう後悔したが、すでに遅し。
切れたテオ兄さんを遮ることはできず、叔父と一緒に、報連相の重要性を説かれ、解放されたのは数時間後となった。