「姉上と接触したものは誰かつかめたのか」
「申し訳ございません。いま」

 ダンッと、机を叩く大きな音が、男の声を遮った。

「すでに数日経った。貴様らは何をしている」

 遮った男の指がトントンと机を叩き、男の苛つきがわかる。

「トビアス殿下、落ち着いてください。私どもは随時報告を」
「報告? 情報もなにもなく、なにが報告だ」
「もっ、申し訳ございません」

 トビアスの怒気に圧倒された男が、膝をつき深く頭を下げる。
 その様に、こみ上げてきた怒りが収まる。
 トビアスは、机に片肘をつきその上に顔を置くと、床に頭を下げたままの男に問うた。

「エリーアスはどうしている」
「はい。エリーアス様は、アーベル家の者を私室に」
「アーベル家だと!」

 トビアスの顔が真っ赤に染まり、腰かけていた椅子を倒し、男の前に立った。

「なぜ、報告が遅い。おまえは無能かっ」
「申し訳ございません。しかし、殿下、ぐっ」

 トビアスが男の顔を蹴り上げた。
 そして、「言い訳はいいんだよ。おまえが無能で、役立たずであることがわかった」と、男の頭を踏む。
 トビアスは顎で扉の前にいる護衛を呼び、「処分しろ」と冷たく言い放った。
 すると男が絶望した顔して、「でっ、殿下。お待ちを、わたしはっ」と、乞うが、トビアスは冷めた目で一掃する。
 室内から男が消えると、トビアスは乱暴にソファに腰をかける。

「おまえの紹介は、役に立たん」
「それは申し訳なく」

 優雅にお茶を飲む男。一連の騒動にも我関せずで、傍聴していた。
 従者が、お茶のおかわりを入れる。

「ビーガー、おまえはどう思う」
「そうですね。今までエリーアス様は中立の立場を固持してきました。しかし、連日の動きから見て王太子派であるのは明確」

 そう言ってビーガーは、新しいお茶に口をつける。

「継承権を主張して第三派となることはないか」
「アーベル家と接触したことで、その線は消えたかと」

 ビーガーの言葉に、しばしトビアスが思案すると、口を開いた。

「ディアーナか。あれは見目だけはいい。あと数年すれば利用しがいがある」
「殿下。アーベル家を敵に回すのはあまり得策ではないかと」
「たかが、一国の侯爵家。なにを恐れる?」

 トビアスが挑発するようにビーガーに問うが、ビーガーは沈黙したまま、頭を横に振る。
 その態度に、つまらなそうな顔したトビアスが、なにかを思い出したのか口元を緩めた。

「マンジェスタの王太子に毒をくれてやったが、すぐに見破られた。面白味もない」
「殿下、お戯れはほどほどに」

 トビアスの突拍子のない行動に、ビーガーは目を見開くと眉間に皺を寄せ、苦言を伝える。
 予想とちがうビーガーの反応に、トビアスが沈黙した。
 気まずい空気が、室内に流れる中、ビーガーの表情が引き締まると、いつになく真剣な面持ちでトビアスを見る。

「殿下、例のものを入手しました」
「そうか。間に合うか」
「すでに配下の者に手配をしております」

 ビーガーの報告にトビアスの機嫌が浮上した。
 その口元を緩めると、「やっと、馬鹿どもに誰が王に相応しいか、わからせられる。フハハハハハ」と、高笑いをする。
 その様子をビーカーは、目を細めながら慈愛ににた眼差しで見つめる。
 しばらく、トビアスの高笑いが続いたが、折を見たビーガーが問う。

「エレオノーラ妃殿下にお伝えはなさいますか」
「よい。母上には、正式に王太子となった時に報告する」
「殿下のお心のままに」

 ビーガーが胸に手をあて臣下の礼をとる。

「なぁ、ビーガー。姉上を自由にしたのは間違いだったか」
「ユリアーナ様は、殿下を裏切ることはございませんよ」
「そうだな。いらぬ心配をした。姉上のすべては俺のものだ」

 トビアスが嬉しそうに微笑んだ。