「──ということです」
「はあー、君たち兄弟は、本当に面倒ごとを拾ってくる」

 アルベルトの報告を聞いたヴィリバルトが、額に手をあてながら顔を横に振った。
 愚痴に近い内容でも、アルベルトはすぐさま反応した。

「ジークかテオに、なにかあったのですか!」
「ないよない。まだない」

 ヴィリバルトが呆れた顔で手を横に振って否定するが、興奮したアルベルトはそれを無視して詰め寄った。

「まだとは、それは、近い将来危険があるということですか!」

 鬼気迫った顔をするアルベルトに、ヴィリバルトが窘める。

「アル、危険があるのは承知のうえで、同行を許したのだろう」
「それは、そうですか」

 指摘を受けたアルベルトは、勢いを失くしたかのように身を縮めていく。
 その姿が主人にかまってもらえない忠犬に見え、ヴィルバルトの頬が緩む。
 アルベルトがヴィリバルトのかわいい甥であることに変わりはない。
 昔のように頭をなでて慰めようと手を伸ばそうとした時、アルベルトが突如顔を上げ、瞳に強い意志を宿して言った。

「弟たちに危険が迫っていると聞いて、はいそうですか。で、終われません!」
「はあー、本当に君はブラコンだね」

 やれやれといった表情で、アルベルトとの距離をとるヴィリバルト。
 なにを勘違いしたのか、アルベルトが満面の笑みでヴィルバルトを見た。

「ありがとうございます」
「褒めてないよ」

 ヴィリバルトが一刀両断した。
 それでも笑顔を絶やさないアルベルト。

「アルベルト、ひとつ質問がしたい」
「はい」

 アルベルトは、背筋を伸ばす。
 ヴィリバルトが愛称で呼ばない時は、怒っているか、呆れ果てた時だけだ。

「かの令嬢を助けようとしたのは、単純にジークベルトかな」

 その問いかけに、アルベルトの眉間に皺が寄る。

『叔父上は、俺を試しているのか』

 アルベルトにとっては、至極当然のこと。それを質問されれば困惑もする。
 考えれば考えるほど、ヴィリバルトの考えが読めない。裏を読むにも、考えが至らない。
 アルベルトの困惑している姿を見て、ヴィリバルトは『また余計なことを考えている』と推測した。

「もう、わかったからいいよ」

 大きなため息のあと、ヴィリバルトが手で制すると、アルベルトに退出を指示する。
 その指示に、アルベルトが反論する。

「叔父上、まだ危険が迫っている話しがまだです」
「しつこいね。わかったよ。迫りそうになったら連絡するよ」

 ヴィリバルトの譲歩に、アルベルトは渋々ながらうなずいた。
 そして、部屋の扉が閉ざされた。


 ***


 ひとりになったヴィリバルトは、ソファに深く腰をかけると瞑想をはじめた。
 一時間ほどして、精神世界から戻ったヴィリバルトは、友人に念話を送った。

『フラウ聞こえるかい?』
『なに? ヴィリバルト?』
『少しお願いがあるんだよ』
『ヴィリバルトが、私にお願い! もちろんよ!』
『実は──お願いできるかい』
『むぅ。あの子に頼るのは、嫌だけど、ヴィリバルトのお願いだから、聞いてあげるわ。だけど、あの子が嫌だと言ったら、ダメよ』
『ありがとう。助かるよ。できれば早めにお願いするよ』
『わかったわ。大急ぎで、あの子を捕まえてみせるわ!』

 威勢の良い声で、フラウが念話を切った。
 フラウのやる気満々の姿が目に浮かび、なぜかヴィリバルトは不安になった。
 やる気が空回りして交渉に失敗し、ヴィリバルトに泣きつくフラウが想像できたからだ。
 ヴィリバルトは、思う。
 人選を見誤ったかもしれないと。