お属初めが無事に? 終了した数日後、俺は幸せの国の中で微睡んでいた。

「ねぇ、ジーク。貴方のお兄様とお姉様は、ヴィリーの試練をクリアできるかしら。うふふふ」

 母上のその言葉で、俺は覚醒する。
 ここ数日、屋敷にいるはずの父上が、めずらしく現れなかった。
 それも関係しているのだろう。
 大人たちは、なにを企んでいるのだろう。
 赤ん坊で、動けない俺には、その情報を入手することは、困難だ。
 兄さん、姉さん、よくわからないが、頑張って試練をクリアしてください。
 祈っていますよ。

 ――三日前。アーベル家屋敷内の某廊下。

 侍女たちが、もくもくと清掃をしていた。
 塵一つない廊下を維持できるのも、この優秀な侍女たちのおかげである。
 新人の侍女が、声をひそめ、気になる話を始めた。

「ジークベルト様の噂聞きました?」
「ええ、属性確認のために、魔術省が特例で動いているわ」
「噂ではないのですか?」
「一般的な『お属初め』の日から、一ヶ月以上経ってもアーベル家からの公表がないことに、痺れを切らしたそうよ」
「それはヴィリバルト様が、鑑定なさるから遅れていただけで、旦那様は公表すると宣言されていましたよね」
「そうね。でも旦那様の発表前に動くそうよ」
「嘘?!」
「なんでも明後日、アーベル家に鑑定師を送り込む手筈とか」
「それ本当なんですか?」
「貴方たち仕事中に私語は慎みなさい」
「アンナさん! 申し訳ありません」

 侍女長のアンナに、新人侍女は萎縮する。
 廊下の掃除が一段落つきそうだったので、今日聞いた噂の真相を確かめたかったのだ。
 先輩侍女は、噂を肯定した。
 三日後に魔術省から、鑑定師がくるのだ。
 ジークベルト様の『お属初め』は、すでに終了している。
 その発表を待たずに魔術省が動いたのだ。
 これは一波乱も二波乱もありそうだ。 
 新人侍女は、廊下の掃除を終えると、そそくさとその場を後にした。
 すると、廊下の奥にある部屋から、二つの影が出てきた。

「テオ聞いた?」
「うん。でも姉様だめだよ。大人の話に首を突っ込んだらいけないと、父様たちに怒られたばかりじゃないか」
「でもでも、もしかしたら、ジークもゲルトのように強制的に魔術学校へ行かされるかもしれないわ」
「大丈夫だよ。父様たちが、絶対に阻止するから、安心しなさいと言っていたじゃないか。それに不審者は、アーベル家の敷地内には、入れないよ」
「そんなのわからないわ。少しでも危険な可能性があるなら、私は阻止するべきだと思うわ! 私は行くわ!」
「姉様!」
「離してテオ!」
「姉様、落ち着いて。鑑定師が来るのは明後日だよ」
「あら、私としたことが」
「姉様……」
「テオ、手伝ってくれるわよね」

 マリアンネの真剣な顔つきに、テオバルトは、思案した。
 この顔は、僕が否と言っても行動するな。
 姉様、一人で行動をさせると、あとあと大問題になるような気がする。
 はあー。深いため息がでる。

「テオ、ため息なんて吐いて、どうしたの」
「手伝うよ」
「本当!」
「だけど条件があるよ。当日までは絶対に動かないこと」
「どうして?」
「姉様、考えてもみて。魔術省に行って鑑定をやめるように訴えても、大人たちが子供の訴えを聞くとは思えないよ。だとすれば、当日、鑑定師を何とかする方が良いと思う」
「それもそうね」
「うん。だから当日までにどうするかを考えよう」
「わかったわ」

 二人は、お互いしっかりと頷いて、その場を後にした。
 その行動、言葉を陰で見ていた人物にマリアンネたちは、気づいていない。
 ふと影が呟く。

「テオは、及第点だね。マリーは、もう少し状況を冷静に判断する必要があるね」