昔むかし、とある国に王様が居ました。
王様は自ら兵を率いて民を護り、
飢えて貧しかった国を豊かにしました。
武芸の才ある王様であり、
国民にも愛される王様でした。
民たちはその功績を称えて、
全知全能の王と称えられました。
食べ物に不自由ない平和な国は、
王様によって永遠の繁栄を
約束されたものと誰もが思えました。
しかし王様は病に倒れました。
すると多くの妃と多くの王子、
その子どもたちが次の玉座を巡り、
身内どうしのケンカが始まりました。
病に倒れた王様を心配し、
交流のあった友好国からは
多くの使者が見舞いに訪れました。
国一番の美味な食材を持ち寄って、
いち早い病の回復を祈りました。
また使者たちは医師を連れ
症状から病を調べましたが、
原因はだれにも分かりませんでした。
国王を失えば今度は身内ばかりではなく、
国同士が戦争を始めかねません。
誰もが悩んでいるところに、
やせ細ったひとりの老人が現れました。
遥か遠くの高い山に住み、
霧を食べて生きると噂される賢者様でした。
賢者様は国を憂う王様の為に、
とても美しい3つの薬を用意したのです。
サファイアのように青い煌めきを放つ薬。
琥珀のように透明な金の光沢を持つ薬。
ルビーのように蠱惑的な赤い薬。
この薬すべてを順に飲めば、
病はたちどころに消え去り
王様の望む体が手に入ると言うのです。
薬の説明は王様にとって
大変に難しいものでしたが、
一国の主が質問を返すことを恥じらいました。
なにせ王様は全知全能の王様なのですから。
賢者様はそれを理解して、
簡単な説明を残していきました。
――青い薬は魂を守る薬です。
王様は青い薬を飲みました。
それはとても苦い薬でしたが、
なんだかすごく気分が良くなりました。
――黄色の薬は痛みを失くす薬です。
王様は黄色の薬を飲みました。
それはとても臭い薬でしたが、
病に苦しむことがなくなりました。
家臣たちは王様の回復に喜びました。
王様は最後の薬を飲むのをためらいました。
苦い薬も臭い薬も嫌になり、
それに元気になった王様には
もう薬は必要ないと思ったからです。
王様は賢者様から貰った、
蠱惑的な赤い薬を残しました。
――赤い薬は肉体を捨てる薬でした。
賢者様が持ってこられた薬であっても、
それはとても怪しい薬でした。
王様が体調を取り戻すと
家族のケンカは無くなり、
国は再び元の活気を取り戻しました。
王様が自分の体調に異変に気づいたのは
すぐ後のことです。
王様はどんなに寝ても眠たくなり、
何かを食べていても寝てしまいました。
それから王様の体から、
これまで嗅いだことのない
不思議なにおいがするのです。
とても甘い香りでした。
王様は賢者様からの薬が気がかりになりました。
やがてしばらくたったある日、
王様の足の指先が取れ落ちてしまいました。
不思議と痛みはありませんでしたが、
体の異変は日ごとに増すばかりでした。
再び病に倒れた王様は、家臣に命じて
赤い薬を自分の口に運ばせました。
王様は自分で薬が飲めません。
なぜなら足の指だけではなく、
手足を全て失ってしまったからです。
耳さえも落ちてしまい、
王様の耳には誰の声も何も届きません。
家臣が赤い薬を目の前にかざすと、
視力さえも失った王様は
うなずいて薬を飲みました。
するとたちどころに手足は元に戻り、
耳も生え、視力は回復して、
遠くの賢者様も見えるようになりました。
赤い薬はすばらしい薬でした。
賢者様は王様の姿を見て、言いつけを守らずに
順番に全ての薬を飲まなかったことを察しました。
なぜなら赤い薬は古く病んだ体を捨て、
新しい体を得る為のものだったからです。
赤い薬から体を守る青い薬も、
痛みを和らげるための黄色の薬もない。
病で弱りきった王様の体に、
強力な赤い薬を与えてはいけませんでした。
賢者様を目の前にして、
王様は手足を失ったままの
自分の体を見下ろしました。
赤く燃え上がる国を見下ろしました。
王様は自ら兵を率いて民を護り、
飢えて貧しかった国を豊かにしました。
武芸の才ある王様であり、
国民にも愛される王様でした。
民たちはその功績を称えて、
全知全能の王と称えられました。
食べ物に不自由ない平和な国は、
王様によって永遠の繁栄を
約束されたものと誰もが思えました。
しかし王様は病に倒れました。
すると多くの妃と多くの王子、
その子どもたちが次の玉座を巡り、
身内どうしのケンカが始まりました。
病に倒れた王様を心配し、
交流のあった友好国からは
多くの使者が見舞いに訪れました。
国一番の美味な食材を持ち寄って、
いち早い病の回復を祈りました。
また使者たちは医師を連れ
症状から病を調べましたが、
原因はだれにも分かりませんでした。
国王を失えば今度は身内ばかりではなく、
国同士が戦争を始めかねません。
誰もが悩んでいるところに、
やせ細ったひとりの老人が現れました。
遥か遠くの高い山に住み、
霧を食べて生きると噂される賢者様でした。
賢者様は国を憂う王様の為に、
とても美しい3つの薬を用意したのです。
サファイアのように青い煌めきを放つ薬。
琥珀のように透明な金の光沢を持つ薬。
ルビーのように蠱惑的な赤い薬。
この薬すべてを順に飲めば、
病はたちどころに消え去り
王様の望む体が手に入ると言うのです。
薬の説明は王様にとって
大変に難しいものでしたが、
一国の主が質問を返すことを恥じらいました。
なにせ王様は全知全能の王様なのですから。
賢者様はそれを理解して、
簡単な説明を残していきました。
――青い薬は魂を守る薬です。
王様は青い薬を飲みました。
それはとても苦い薬でしたが、
なんだかすごく気分が良くなりました。
――黄色の薬は痛みを失くす薬です。
王様は黄色の薬を飲みました。
それはとても臭い薬でしたが、
病に苦しむことがなくなりました。
家臣たちは王様の回復に喜びました。
王様は最後の薬を飲むのをためらいました。
苦い薬も臭い薬も嫌になり、
それに元気になった王様には
もう薬は必要ないと思ったからです。
王様は賢者様から貰った、
蠱惑的な赤い薬を残しました。
――赤い薬は肉体を捨てる薬でした。
賢者様が持ってこられた薬であっても、
それはとても怪しい薬でした。
王様が体調を取り戻すと
家族のケンカは無くなり、
国は再び元の活気を取り戻しました。
王様が自分の体調に異変に気づいたのは
すぐ後のことです。
王様はどんなに寝ても眠たくなり、
何かを食べていても寝てしまいました。
それから王様の体から、
これまで嗅いだことのない
不思議なにおいがするのです。
とても甘い香りでした。
王様は賢者様からの薬が気がかりになりました。
やがてしばらくたったある日、
王様の足の指先が取れ落ちてしまいました。
不思議と痛みはありませんでしたが、
体の異変は日ごとに増すばかりでした。
再び病に倒れた王様は、家臣に命じて
赤い薬を自分の口に運ばせました。
王様は自分で薬が飲めません。
なぜなら足の指だけではなく、
手足を全て失ってしまったからです。
耳さえも落ちてしまい、
王様の耳には誰の声も何も届きません。
家臣が赤い薬を目の前にかざすと、
視力さえも失った王様は
うなずいて薬を飲みました。
するとたちどころに手足は元に戻り、
耳も生え、視力は回復して、
遠くの賢者様も見えるようになりました。
赤い薬はすばらしい薬でした。
賢者様は王様の姿を見て、言いつけを守らずに
順番に全ての薬を飲まなかったことを察しました。
なぜなら赤い薬は古く病んだ体を捨て、
新しい体を得る為のものだったからです。
赤い薬から体を守る青い薬も、
痛みを和らげるための黄色の薬もない。
病で弱りきった王様の体に、
強力な赤い薬を与えてはいけませんでした。
賢者様を目の前にして、
王様は手足を失ったままの
自分の体を見下ろしました。
赤く燃え上がる国を見下ろしました。