そこは古くから祟り山と呼ばれ、
村外のヒトの入山を禁じている。
入った者はキツネに取り憑かれ、
死に至るとまで言い伝えられていた。
現に今、私の目の前で
ひとりの若者がキツネに憑かれているからだ。
村が管理しているこの山は、
一帯を鉄柵で囲い有刺鉄線と
電柵までもが設けられ、
ヒトならず動物までも侵入を許さない。
昔から半年に一度、村の古参らが集まり
枝打ちや間伐などの山の手入れを行い、
山頂までの参道を整備し、境内の清掃を
朝までかけて行うと教えられてきた。
清掃が終わる朝までは絶対に
山の柵が開放されることはなく、
誰ひとりとして外との連絡は取れない。
大学での仕事を辞めた私は故郷の村に帰り、
この行事に参加させられることになった。
私はまだ40半ばだというのに古参扱いだ。
少子高齢化の波はこの村にも来ている。
清掃の概要は知っていたし、
キツネに取り憑かれるという話も
知っていたが信じていなかった。
清掃の日に山の入り口の鉄柵で見たのは、
無断で山に侵入しキツネに憑かれた若者だった。
若者はキツネに取り憑かれていた。
視点が定まらず、笑い続けている。
これが山の祟りなのかと驚愕する私の横で、
古参たちは呆れた様子で苦笑を浮かべている。
外との連絡は禁じられている為に
この若者の手足をロープで縛り、
担いで参道を登り、祭壇近くの神木に括る。
2体の狛狐に迎えられ、
竹箒で軽く境内の落ち葉を掃く。
清掃はたったこれだけで終了した。
それから持ってきた
2匹の子ウサギを山の中に放つ。
雄と雌のウサギはキツネ様の為に、
供物として用意するものだという。
拝殿どころか本殿もない
神社のような古い建物に入ると、
なぜだか鍋の用意をさせられる。
他の者たちはナイフやナタを持ち、
カゴを背負って山の中に入っていった。
おとぎ話のように柴刈りにでも出たのだろうか。
新顔であり村に出戻りで手持ち無沙汰な私は、
キツネ憑きの若者の様子を見るしかなかった。
木に縛られたまま器用に眠っている。
若者は本当にキツネに憑かれたのだろうか。
清掃の説明を受けないまま時間は過ぎ、
夕方になると山に入った全員が建物に集まった。
狩ってきた大きなウサギをバラし、
採ってきた山菜やキノコを鍋に入れた。
古参らはキノコには詳しいらしく、
エノキタケやシメジやナメコなどの
形や量を褒めて喜ぶ。
私はキノコを見せられて勉強させられた。
半年後にはキノコ採りに駆り出されるのだろう。
幼い頃にやったボーイスカウト活動を
思い出して懐かしんだ。
初めて食べるウサギ肉には、
独特の臭みがあったが
鶏肉のようで美味かった。
皆一様に酒を飲み、鍋に舌鼓をうつ。
すると誰かが笑い始めたので、
私も釣られて笑ってしまった。
村に戻ってひさびさに大声で笑った。
酒のせいか、とても愉快だった。
すると古参の誰かが私を指さして
キツネ憑きだ、と言ったので私はさらに笑った。
笑いが止まらなくなり、苦しくなって
もったいないことに胃の内容物を全て吐いた。
私はこれで笑いが収まり酒は自粛し、
水を飲んで胃を洗って部屋の隅で安静にした。
それでも皆なぜか笑っている。
気付けばそれは異様な光景だ。
そう、これが異様な光景だった。
今までキツネ憑きだと言って、
山にヒトを寄せ付けなかったのは
この騒ぎの為だったのだ。
思い出したのはボーイスカウト活動ではない。
私は以前、大学で似た物を食べたことがあった。
あるキノコに含まれる幻覚成分のシロシビンが、
この清掃に参加した村の者たちを
キツネに取り憑かせたのだ。
私は水を飲んで一息ついて
またその異様な光景を眺めている。
まさかマジックマッシュルームパーティーとは。
村外のヒトの入山を禁じている。
入った者はキツネに取り憑かれ、
死に至るとまで言い伝えられていた。
現に今、私の目の前で
ひとりの若者がキツネに憑かれているからだ。
村が管理しているこの山は、
一帯を鉄柵で囲い有刺鉄線と
電柵までもが設けられ、
ヒトならず動物までも侵入を許さない。
昔から半年に一度、村の古参らが集まり
枝打ちや間伐などの山の手入れを行い、
山頂までの参道を整備し、境内の清掃を
朝までかけて行うと教えられてきた。
清掃が終わる朝までは絶対に
山の柵が開放されることはなく、
誰ひとりとして外との連絡は取れない。
大学での仕事を辞めた私は故郷の村に帰り、
この行事に参加させられることになった。
私はまだ40半ばだというのに古参扱いだ。
少子高齢化の波はこの村にも来ている。
清掃の概要は知っていたし、
キツネに取り憑かれるという話も
知っていたが信じていなかった。
清掃の日に山の入り口の鉄柵で見たのは、
無断で山に侵入しキツネに憑かれた若者だった。
若者はキツネに取り憑かれていた。
視点が定まらず、笑い続けている。
これが山の祟りなのかと驚愕する私の横で、
古参たちは呆れた様子で苦笑を浮かべている。
外との連絡は禁じられている為に
この若者の手足をロープで縛り、
担いで参道を登り、祭壇近くの神木に括る。
2体の狛狐に迎えられ、
竹箒で軽く境内の落ち葉を掃く。
清掃はたったこれだけで終了した。
それから持ってきた
2匹の子ウサギを山の中に放つ。
雄と雌のウサギはキツネ様の為に、
供物として用意するものだという。
拝殿どころか本殿もない
神社のような古い建物に入ると、
なぜだか鍋の用意をさせられる。
他の者たちはナイフやナタを持ち、
カゴを背負って山の中に入っていった。
おとぎ話のように柴刈りにでも出たのだろうか。
新顔であり村に出戻りで手持ち無沙汰な私は、
キツネ憑きの若者の様子を見るしかなかった。
木に縛られたまま器用に眠っている。
若者は本当にキツネに憑かれたのだろうか。
清掃の説明を受けないまま時間は過ぎ、
夕方になると山に入った全員が建物に集まった。
狩ってきた大きなウサギをバラし、
採ってきた山菜やキノコを鍋に入れた。
古参らはキノコには詳しいらしく、
エノキタケやシメジやナメコなどの
形や量を褒めて喜ぶ。
私はキノコを見せられて勉強させられた。
半年後にはキノコ採りに駆り出されるのだろう。
幼い頃にやったボーイスカウト活動を
思い出して懐かしんだ。
初めて食べるウサギ肉には、
独特の臭みがあったが
鶏肉のようで美味かった。
皆一様に酒を飲み、鍋に舌鼓をうつ。
すると誰かが笑い始めたので、
私も釣られて笑ってしまった。
村に戻ってひさびさに大声で笑った。
酒のせいか、とても愉快だった。
すると古参の誰かが私を指さして
キツネ憑きだ、と言ったので私はさらに笑った。
笑いが止まらなくなり、苦しくなって
もったいないことに胃の内容物を全て吐いた。
私はこれで笑いが収まり酒は自粛し、
水を飲んで胃を洗って部屋の隅で安静にした。
それでも皆なぜか笑っている。
気付けばそれは異様な光景だ。
そう、これが異様な光景だった。
今までキツネ憑きだと言って、
山にヒトを寄せ付けなかったのは
この騒ぎの為だったのだ。
思い出したのはボーイスカウト活動ではない。
私は以前、大学で似た物を食べたことがあった。
あるキノコに含まれる幻覚成分のシロシビンが、
この清掃に参加した村の者たちを
キツネに取り憑かせたのだ。
私は水を飲んで一息ついて
またその異様な光景を眺めている。
まさかマジックマッシュルームパーティーとは。