オバケというものは居もしない。
現代ではそう考えるヒトは少なくはない。

そんなヒトの家に押し掛けてやろう、と
軽挙妄動を起こすオバケも居ないでもないが。

とりわけ科学者は迷信ごとを好まない。

あるところに科学漬けの研究者が居た。
国家の中枢で研究に明け暮れ
帰れない日々が続いたが、
妻子があり充実な生活を送っていた。

とても好奇心旺盛な研究者で
オバケが出たとあればカメラを携え、
作業そっちのけで研究室を飛び出して
科学的に原因究明する変人ともされた。

この研究者の影響で作業が中断する為に、
研究所内でオバケは禁句となった程である。

プロジェクト終了に伴い研究所を辞めた後は、
研究者は大学で教鞭を執ることとなった。

永久機関や似非科学といった
迷信めいた研究をする学生に、
研究者改め教授は科学者の信念に基づき
これらを叱責する厳しさを見せた。

しかしながら研究所時代の、
風変わりな性格はすぐに変わらなかった。

東に心霊スポットあれば学生を率いて出向き、
西に似非科学の企業があれば強く抗議する、
騒々しい教授と世間に知られることとなった。

ある日、教授の妻が亡くなった。
長い闘病生活の末のことである。

痩せ衰えた妻を看取ると
医学に疎い自らを責める日々が続き、
周囲の人間も意気消沈する教授の心配をした。

やがて憔悴した教授の元に妻が現れた。

「ちゃんとご飯を食べなさい。」とか、
「運動不足は早死にの元よ。」と叱るのである。

死んだ妻に叱られて教授は目を覚ました。

夢枕に立つ妻はオバケであったが、
教授は科学でこれを証明しようなどとはせず
言われた通りに食事と運動をして、
普段と変わらぬ生活を送るようになった。

それから妻のオバケと
いつかまた会う日を楽しみにした。