山奥の小さな村里に
朗報が舞いこんだのは秋頃であった。

農作物の収穫を終えて冷害にあった
今年の不作を嘆いていたところ、
山のような腹の巨漢が村にやってきた。

目の周りには濃いクマがあり
タヌキの焼き物を思わせる風貌で、
親しみやすくよく腹太鼓を叩き、
大いに笑う気っ風の良い男だった。

男は土地の下見に来たと言い、
小さな村を一週間掛けて滞在しては、
地元の者が見向きもしない特産品である
動物の毛を使った筆に目をつけると、
真新しい紙幣で大量に買い込んだ。

丸い頭の小さな背丈の村長は
この来訪者に喜んで接待し、
こんな山奥に来た理由を尋ねた。

話し方も実に大げさな男であった。

「こーんなに素晴らしい物は初めて見ますて。
 これらはやがて高い価値を持ちますよ。
 なんせこの村には近い内に家を求めて、
 土地を買うヒトが増えるでしょうからね。
 なんせ時代が、働き方が変わったんですよ。
 ここは都市部から近くて自然が豊かで、
 都市部の人たちが憧れるほど空気が綺麗だ。
 都会と隔離されたこの土地だでな、
 単身者であっても魅力的な場所と言えますな。」

村は山陰(やまかげ)の地ではあった為に、
土地は余らせており、若い働き手は
近くの都市部に移住するのが常であった。

山の近くには高速道路が走っているものの、
近くは耕作に不向きな不毛な土地で
水や空気は悪くなる一方であって、
村の者たちは山の穢れと忌避していた。

そんな場所でも都市部の淀んだ空気に比べれば
都会のヒトには幾分かマシなのかもしれない。

男が出ていって間もなく
土地に移住を求める者たちが、連日
何人か現れたので村長もそれを確信した。

それからしばらくしてふたたび顔を見せた巨漢が、
またしても土地の下見に来たのだが
以前に比べてどうやら様子がおかしい。

「私も古い人間ですんで
 こーんと忘れとりましたがね。
 今はブロードバンドが当然の時代でしてな。
 この村の通信設備が心もとないというので、
 移住を考え直してとるそうなのです。」

男の言う通り確かに移住を求める者たちは、
皆一様にスマートフォンなる画面を見ては
腕を上げたり振ったりしては電波を求めた。

「私の友人が通信大手のインフラ企業に
 関係するところに勤めてましてね。
 ここらの土地にアンテナを立てる
 調査をしようって話が進んどるんです。
 心苦しいとこですが村長さんには
 その費用の一部を負担していただきたく
 思っとるんです。もちろん私も出資しますよ。
 なんせここは宝の山ですからな。
 移住者が増えれば将来設備があって
 困ることはありますまいて。」

そう申し出た男に対して村長は
建前では相手の気持ちを喜んで汲み取り、
本音は利益を村で独占しようと腹黒い事を考え、
調査費用の一部だけを負担した。

男が出ていったあとに通信業者と挨拶し、
ほどなく調査の日程が決まると費用を支払い
順調に進むと思った。

しかし調査の日になっても一向に誰も現れない。
先方に連絡したものの連絡が付かない。

そこでようやく気がついた。
あのタヌキ面の男に騙されて、
村長はやすやすと金を出してしまったのだ。

村長は怒りのあまりに我を忘れて顔を赤くした。

すると全身にボッと毛が生え
茶色と黒色の毛に覆われて、頭には
葉っぱを乗せたタヌキの姿になった。

タヌキの村にやってきた
親しみあるタヌキ面の巨漢にまんまと騙され、
元から有りもしない利益に飛びついて
大金を失ったところに、今度は
村の住民から大変な報告を受けた。

男や移住希望者が支払った紙幣が、
全部葉っぱになったというのだ。

――してやられた。

紙幣を葉っぱにして騙すやり口は、
古くから決まっている。

あの巨漢はキツネが化けた姿であった。