オレはしがない普通の高校生で、
ごくごく平凡な日々を過ごしていた。

ある日、自分が勇者の記憶を覚醒させると、
元の世界に戻るためにある魔術を見つけた。

オレの新たな物語が今、幕を開ける。

駆け出しの冒険者で魔族との死闘を繰り広げ、
魔族軍の大攻勢から町を守ると功績を称えられた。

王国から聖騎士の勲章を授けられた時に、
前世の妻であった王女と運命の出会いを果たす。

しかし王女は毒を盛られてこの世を去り、
オレは無実の罪で投獄されかけたところを
仲間であった女騎士に助けられる。

オレたちは王国から追われることとなったが、
心強い仲間の女騎士に背中を預け
当初の目的である魔王討伐を目指した。

――だがその旅は長くは続かなかった。

暗黒竜との戦いで不覚にも致命傷を負った俺は、
暗黒竜の血肉を(にえ)とする女騎士の
生命分与の術によって一命をとりとめた。

実は彼女は異端とされる魔術師の家系であった。

女騎士はその代償で魔力の源である生命を失い、
強烈な禁呪の副作用でオレは心臓に
魔神の呪いを受けることとなった。

孤立無援の中、剣の腕前だけで生き延び、
ひとりで魔王を倒すと王国からの罪を免れた。

前妻の娘であった王女を殺した犯人である
女王を告発して、暗黒騎士と呼ばれ
行き場を失ったオレは各国を放浪した。

延命魔法で受けた魔神の呪いは次第に強まり、
魔術師の弟子と名乗る娘(女騎士の妹)の手助けで
転生術により現代に生まれ変わることができた。

どうやら転生の際に、
今までの記憶を封じられていたようだ。

心臓から左腕に巣食う魔神の呪いが暴れ、
ずっと押さえつけていたがもう限界らしい。

現世は悪霊たちの巣窟だ。

魔王死してもなお魔の勢力は衰えることなく、
勇者不在の世界をよいことに人々を病魔に冒す
悪逆無道な振る舞いを続けていた。

だけどオレが覚醒したからには
そんな勝手は許さない――。

「そうか。それは良かったですね。」

スーツ姿にメガネをした半透明な男が頷いた。
察するにインビジブル・スキルの能力者だ。

この男は自らを〈管理局〉と名乗った。

同じく半透明な隣の男は、
丸めた頭に腕を組んでため息をつく。

オレの周りの男たちと同じで、
悪霊に取り憑かれているのか、瞳に光はなく、
死んだ魚のような目をしている。

背の低いオレを見下しているが、
高い潜在能力を秘めていることに
まだ気づいていない大間抜けに間違いない。

こういう奴らはごまんと見てきた。

魚目の男がオレから目を背け、
スーツ姿の男に問いただした。

「そんで、こいつの死因は?」

「道路飛び出しです。転生魔術だとか言って。」