と、R38は動いた。

ストラップをくわえると、パッと窓から外へ飛びあがる。

俺は階段を駆け下りると、門の横にいつも放置されている自転車にまたがった。

「竹内起きろ! 飯塚さんを追いかけるぞ!」

「どういうこと? まさか見つけたのか?」

「違う。いいから来い!」

「なら嫌だ。俺はいま非常に忙しい」

片手で端末を操作しながら、空を見上げカラスを追う。

よそ見運転はすぐにコンクリート壁に激突した。

「くそっ」

地図アプリを立ち上げる。

カラスのくわえたストラップの位置が、マップ上に示された。

俺はペダルにぐっと体重をかける。

カラスの移動速度は56.8km/h。

自転車で追いかけるには無理がある。

しかも相手は地上の障害物を全て無視して移動していた。

「危ねーぞ、気をつけろ!」

歩行者とぶつかりそうになって、怒鳴られる。

どこ見て走ってんだとか言われても、アプリを見ながらとしか答えようがない。

交差点で車にひかれそうになって、俺はようやく諦めた。

アプリの鳥はどこまでも自由に飛んでいく。

竹内からの応答もない。

くそっ、次は空飛ぶ自転車の開発予算でも申請するか? 

いや、幹部専用のロケットスーツがあったな。

早めに使用許可を取っておくべきか? 

そんなことを考えながらも、渋々コンビニへ向かう。

竹内は再起動された天命のセットアップに夢中だった。