「山? 山の方だな」

俺が初めての任務に関わった場所に近い。

移動する自販機が電線に絡みつき、辺り一帯を停電させた。

あの時はすぐこの後ろに、あの人がいたのに……。

竹内は首をかしげる。

「電波の届かないところ? だけど、今時そんなところなんて……」

「妨害電波を出しても、人がいなければ周囲に気づかれることもない。人気のないところを選んでいる可能性はある」

突然、隊長の位置を示す表示がマップから消えた。

「ん? これは自分で消した? それとも消された?」

竹内はシステム上での捜索を始めようとしている。

本部では特に騒いでいる様子もない。

隊長自身の特殊任務を考えると、こんな端くれの一般隊員から情報を秘匿することなんて、別に珍しいことでもなんでもないのだろう。

「待って。これは緊急事態だよ、使えるじゃないか」

突然そう言い放った俺を、竹内は不思議そうに見上げる。

「隊長が行方不明となった。我々は至急、救出作戦を実行する」

俺たちは飯塚さんを追うんじゃない、隊長を救出しに行くんだ。

それならば隊員行動規範にだって違反しない。

竹内は呆れたように頭を横に振った。

「そんないいわけ、通用するとは思えないけどな」

「どうせ俺たちは不出来なバカなんだから、バカでいいんだよ」

竹内はため息をついた。

ガタガタと立ち上がり、骨張った細い体で眼鏡ごしににらみつける。

「で、どうするつもりだ」

「……どうしよう」

竹内は空になったカップを洗い始めた。

その隣にカップを置くと、黙って一緒に洗ってくれる。

「お前お得意のノープラン作戦?」

「……ダメ、かな?」

「無理だろ。やめだ、やめ。もう少しちゃんと考えてから動こう。また失敗を繰り返したくはないだろ」

洗い終わったカップを水切り棚に並べる。

俺たちは同時にため息をついた。