玄関の門をくぐった時には、22時を過ぎていた。

真っ暗に静まりかえった階段を、そっと足を忍ばせて登る。

俺以外の3人は1階で寝ている。

2階の小さな3部屋は、俺がほぼ一人で独占していた。

築60年以上を超える木造住宅2階4畳半の一室、寝転がって見上げた天井にはシミが浮き出ている。

積み上げられた機器の間で、俺の居場所は51×55cmのこの座布団の上だけだ。

強度だけを求めて買ったスチールラックに、黒いレースを着た人形が置かれている。

その碧い目が、ギロリと動いた。

慌ててそれをつかみ取る。

1/3サイズドールMSD(女)という型だというところまでは調べていた。

40㎝前後の、比較的大きな人形だ。

小さな口がパクパクと動いている。

明らかにこれは何かの合図だ。

どうしていいか分からずに、俺はその頬をぎゅっとつまんでみる。

片方の目はキョロキョロと動いているが、もう一つの目は動かない。

それがUSBだったことを思い出した。

それをPCに差し込むと、あっという間に立ち上がる。

人形はしゃべり始めた。

「ようやく起動してくれたんだな」

「飯塚さん!」

正直、全く自分の好みでもなければ、ちょっと気味が悪いとすら思っている人形だ。

「これ、飯塚さんが送ってきたんですか?」

「うん、そう」

どこで会話しているんだろう。

部隊の端末を使って検索してみたけれども、どこにもヒットしなかった。