「まずは自動操作モードから手動モードに切り替えて。それから「初期探査基礎セット」の起動」

俺の背後で、竹内はじっとスマホの画面をにらんでいる。

言われるがままに自分の端末を動かした。

「後は画面の指示と自分の頭で考えて動け」

だからどうしてこんなに雑なんだろう。

画面を切り替え、言われた通りにメニューをタッチしていく。

柴犬ロボの目がカッと赤く光った。

「お、正解」

そのまま大きな口を開け、首を左右に振っている。

「こんなもんでいいのか?」

「いいわけないだろう。新人教育用スターターキット『わんこ』だ。まずはこれを使いこなせ」

「わんこ」

「たったいま俺が名付けたんだ。文句あるか」

激しく首を横に振る。

建物の中には、明らかにサーバー本体と思われる機器が数十台並んでいた。

比較的大規模な基地局だ。

いづみはその配線を調べている。

「電源はどこから来ているのかしら。あぁ、外灯の明かりがついていたわね。電線は見当たらないから、地下ケーブルか」

端末画面に「検査終了」の文字が浮かんだ。

わんこは機嫌良く尻尾を左右に振っている。

次の操作指示は出ていない。

「で、どうするんだ?」

「過去の調査報告書と重大インシデント、ケーススタディは熟読したか?」

「……まだだ」

「基本行動指針表だ。とりあえずその通りに動け」

フローチャート式に示されたそれの、最初のメニューをタップする。

「監視システムが作動してるわ。サーバーが初期化される」

いづみはエアカッター発生装置を振る。

天井の隅に設置されていたカメラのレンズが、パリンと音を立てて割れた。

「先に強制停止させましょう」

殺風景な部屋に、一つだけ机と椅子が置かれてあった。

そこで小さなノートPCが何かを動かしている。

いづみはUSBを差し込んだ。

ふいに俺の端末は振動し、緊急回避のアラートを発する。

『熱源探知、左右後方上』

竹内の手が俺の襟を背後からつかんだ。

一歩右後ろに引きずられる。

その足元に、レーザー銃らしきものから発せられた焼け跡は、ジュッと音を立てた。