竹内が車を止めたのは、何もない草原だった。

比較的新しいフェンスで周囲を真四角というわけでもなく、ぐにゃぐにゃと囲っている。

昼間にもかかわらず、一本の外灯が煌々と灯りをともしていた。

「この空き地がなにか?」

「怪しいったらありゃしないじゃない」

「全くだ」

青草が伸び始めたばかりの草地は、背景の小さな山と傾きかけているフェンスで仕切られている以外に、特徴はなにもない。

そもそも辺り一面耕作放棄地のような土地の一部を切り取って、何を疑えというのだろうか。

いづみはR38を空に飛ばす。

「新人くん。仕事よ」

竹内はミニバンからケージに入った犬型ロボットを取り出した。

開いた背中部分のパネルをなにやら操作してから、リードを俺に渡す。

「で、何をしろと?」

「散歩」

様々な探査機能を備えた犬型ロボットがとことこ調査しているのを、散歩させているかのようにカモフラージュしている。

犬を動かしているのは俺じゃない。

竹内が車内から操作しているのに、連れられているだけだ。

いづみは周囲の様子を慎重に観察している。

「ちょうどいい機会だ。紐持って歩いてるだけじゃ、お前もつまらんだろう。このわんこの機能と操作マニュアルを犬の背中に映し出してやるから、覚えろ。全ての出動時の基本操作だ」

柴犬を模した茶色の背に、細かな文字がスクロールされてゆく。

これをこの瞬間で全て覚えろっていうのも、無理があるだろ。

「もう何度か出動経験も積んだし、そろそろ覚えてもいいころだ」

「あ、あのさぁ……。これをいま覚えろって、無茶過ぎない?」

「安心しろ。お前の端末にも共有しておいてやる」

襟の裏に隠されているマイクから、「うわっ」という竹内の騒ぎ声が聞こえた。

「どうした?」

「む、虫が出た! くっそ、だからこの季節に外なんか出たくないんだ!」

大騒ぎしながら、マイクの向こうで殺虫剤を吹きつけている音が聞こえる。

そのおかげで、奴の操作していた犬は立ち止まってしまった。