「……そうか。ありがとう」
苦しそうな表情をしながらもお礼を言ってくれた。
お礼なんてしないで…余計に辛くなるから。
そのままUターンして行くと元の道に戻った。
運転している社長だったが娘さんの事が心配なのだろう。
スピードを出して急いでいた。沈黙が続く。
高速を下りてそのまま自宅のアパートまで送ってもらった。
「じゃあ、夏希。本当に悪い。埋め合わせは、必ずするから」
「いえ。お気遣いなく。
それより急いで帰ってあげて下さい。お疲れ様でした」
私は、強引に言い社長をそのまま帰らせた。
社長の車を見送ると深くため息を吐いた。
これからどうしよう。
あと1日泊まるつもりだったから冷蔵庫の中は、残り少ない。
買い物でも行こうかな…気晴らしになるし。
中に入ったらきっと私は、泣いてしまう。
だから気を紛らわしたかった。
部屋に荷物を放り込むと私は、商店街の方に向かった。
今日社長は、来ないから簡単な物でいいや。
こんな時でも社長の顔が浮かぶ。
すっかり居て当たり前になっている自分に気づいた。
ダメ……泣いたら周りが変な目で見てくるからしかし、その時だった。
「あれ?佐久間さん……?」
「えっ?」
何処かで聞いたことがある声が聞こえてきた。
振り返ると意外な人物が目の前に現れた。
嘘っ……稲葉先輩!?
稲葉先輩と言えば、高校時代の憧れの先輩だった。
私が1年の時に彼は、3年生。
スポーツ万能でサッカー部のキャプテン。
その上に成績も優秀でモテていた。
私も淡い恋心を抱いていたが先輩には、その頃。
サッカー部のマネージャーの彼女が居た。
だから想いを告げることもなく先輩は、
卒業してしまいその恋は、儚いまま終わった。