「おや?何だい」

「あ、はい。実は……」

 男性社員は、慌てたように説明をすると
そそくさと居なくなってしまった。絶対に聞かれたわ。
 あぁ、これでまた私の社内の印象が余計に悪くなってしまう。

 そして悪い予感は的中。翌日。
変な噂が流れたのは、言うまでもない。
 会社内を歩けば、あちらこちらで女子社員達に睨まれるはめに……。

「社長を誘惑したのって彼女らしいわよ?」

「人の家庭を壊す気だったのかしら。最低よねぇ~」

 あっという間に私は、社長をたぶらかす
悪女という名のレッテルを貼られてしまった。
 これでは私が社長を誘惑して不倫しているみたいじゃないのよ!?

 全部デマじゃない!!
言い返したいのに下手に言うと言い訳だの
逆ギレだのと言われるので何も言えず黙って通り過ぎていく。
 イライラしながらエレベーターに乗り
社長室まで行くと深呼吸して中に入った。

「失礼します。社長。書類の確認をお願いします」

ニコッと微笑んでみせた。
 かえって怒ると話をさらにややこしくさせるし
昨日みたいに泣いて、すがりつかれても困る。

「どうした?笑顔がワザとらしいぞ?お前……。」

 書類を受け取りながらそう言われた。
だから誰のせいで、こうなっていると思っているのよ!?
 心の中で、そうツッコんだ。

「それは、申し訳ありませんでしたね」

「まぁ、別にいいんだが……それよりも今夜空いてるか?」

 別にいいんかい!!
さらに引きつった笑顔で見せるとそんなことを言い出した。
 殴りたい。でも我慢よ……私。