やっぱり……!

 くはは、とお決まりの笑い声が聞こえる。
 彼は彼でこの状況を楽しんでいるらしい。どうやって私の体から出て行ってくれるのか、皆目見当もつかない。

「おいおい、そんなこと言うなよ。ちょっとは楽しめっての」

 聞こえていたのか、私の声で袴田くんが言う。
 ってか、一人喋りしたら変な奴に見られるから止めてよ……!

「別にいいだろー。減るもんじゃねぇし」

 袴田くんはね? 私は減るの!
 それよりさっさと体返してよ! そして何が起こったのか、ちゃんと説明して。

「うるさっ……ちょっとくらいこのままでも……」
 
 は・や・く!

「……はいはいわかりましたよーっと」

 彼がそう言った瞬間、体から何か重いものが抜けていく感覚がした。
 意識まで飛びそうになるが、なんとか堪えて周りを見れば、自分の体を動かせるようになっていた。

 ちゃんと戻れたのか確かめるように、体を擦りながら辺りを見渡すと、呆れた顔でこちらを睨んでくる幽体の袴田くんがいた。
 不機嫌そうだけど、彼も大丈夫そうだ。

「よかった……! ちゃんと戻れた!」
『うるせぇ奴だな……』
「うるさくさせたのは誰? ってかさっきの何したの!」
『あー……ほら、授業始まるから戻るぞー』
「話を逸らすな! ってちょっと待って、吉川さん!」

 慌てて吉川さんに駆け寄るが、彼女は気を失っていた。気を張って疲れてしまったのだろう。
 彼女を背中に乗せて保健室に運んだところで、校内にチャイムが鳴り響いた。

 遅れて教室に入ったものの、なんとか授業には間に合った。

 しかし、先生もクラスメイトもどこか怯えた様子だったことを、この時の私はまだ知らない。