『アイツは喧嘩に入ってくるような奴じゃねぇ。ちょっとした反抗期に、厄介なところまで足突っ込んじまっただけだ』
「……もしかして、岸谷くんのことをずっと気にしてたの?」
『俺が? んなわけねぇじゃんー! だって俺、人に最悪の助言をするようなヤツなんだからさー』

 袴田くんはケラケラと腹を抱えながら笑う中、私はふいに視線を下ろした。

 笑えるはずがない。現にこの学校にはもう、彼女はいないのだから。

 あの時、恍惚の笑みを浮かべた彼女が頭に過ぎるたびに、本当にこれでよかったのかと胸が苦しくなる。

『最初から決まってた順序だ。人間が悔やむことじゃねぇよ』

 私が思いつめていると思ったのか、袴田くんは給水タンクから降りてくると、私の頭に手を置いて笑う。

『さぁ、今日はどんな話をしようか?』


 私の日常は、袴田くんが現れたあの日から一転した。
 たまに彼が今も生きていて、教室で話せたらよかったなって思うときもある。
 多少面倒な噂が流れていて教室に居づらいが、今まで話せなかった彼との時間は、とても心地良い。

 ……え? 噂って?

 他校との喧嘩が始まると、必ず金髪と黒の二連ピアスをした男が高見の見物をしているらしい。黒いローブを羽織った彼を見て、誰もがこう口にした。

「袴田玲仁は、“死神”になった」のだと。

 窓際の席には、今でも彼が使っていた席が残っている。


【隣の席の袴田くん、死(んで)神になったらしい。】 完