吉川さんはぎゅっと拳を握りしめ、目を潤ませて袴田くんに向かって叫ぶ。

「邪魔だったんだもの! 岸谷くんも井浦さんも、玲仁くんを慕う取り巻きも全員!
 私は学校のミスコンで一位を取った、大勢の人が私を認めてくれた! 
 ……それなのに袴田くんだけは、私に見向きもしなかった。好きな人に見てほしいと思うのは当然でしょう?
 登校するときに通るあの交差点だけが、私と玲仁くんを繋ぐ唯一の共通の時間だった。
 ……あの日も、声をかけようと思ったわ。でも玲仁くん、私を避けるんだもの。そう思ったら……っ!」

 頬に伝う涙と共に、吉川さんはその場に立ち崩れた。
 それは駄々をこねる子供のようで、私には到底理解ができなかった。

「玲仁くんだけじゃないわ。岸谷くんが最初から私をゴミみたいに見てたのは知ってた。だから……この学校の生徒や先生に認知されている私が殴られて怪我でもすれば、消えてくれるかもって」
「それ、本気で言ってるの? 当たり所が悪かったら、単純な怪我で済まなかったかもしれないのに?」
「それでもよかった! ……死んだら、私も玲仁くんのところに行けるもの。後悔なんてなかった。……あなたが居なければ」

 そう言って、吉川さんが私をキッと睨みつけた。

「良い子だと思った。お人好しの使いやすそうな子だと。でも教室に行ってみたら、玲仁くんの隣の席だってことを知って、どうしようもないくらい腹が立ったわ。私の知らない玲仁くんを見れて、沢山お話できる……彼の隣の席! 私のできなかったことを全部、全部井浦さんができたことが許せなかった!」

 今まで溜め込んできた不満が弾けた吉川さんは、泣きながら喚き散らす。顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃで、自分の身を呈して被害者を減らそうとした心優しい表の顔は、いとも簡単に壊れてしまった。

 吉川さんは制服の袖で顔を拭い、「でも、でも」と泣きじゃくりながら続ける。

「……でも、私が玲仁くんを突き飛ばした証拠はないわ。だって目撃者は皆曖昧で、玲仁くんはもう幽霊だもの。幽霊のあなたが、どうやって証明するの?」
「てめっ……この期に及んでまだそんなこと言えんのか!」
「だってあれは事故だもの! 私はその場にいただけ。関係ないわ!」

 今にも殴りかかりそうになる岸谷くんを押さえて、私は彼女と同じ目線になるように屈んだ。
 あんなにきれいに見えた彼女の笑みが今はもう、惨めに思えてしまう。

「吉川さんの言う通り、袴田くんが死んだ原因は本当に不幸な事故だったかもしれない」
「そうよ? 事故なの、勝手にトラックにはねられた玲仁くんが悪いの……」
「それで満足?」