ふと、視界の端に黄色のテープに黒字で太く、“故障中! 触るな危険!”と書かれているのが見えてしまった。
……ってことは?
「――っやば……!」
危機感で体を起こそうとした瞬間、フェンスに取り付けられていた金具が外れ、大きく揺れて校舎の外へ倒れ始めた。
咄嗟にまだしっかり固定されている隣のフェンスを掴む。
しかし、切れたフェンスの尖った部分が制服に引っかかって、勢いで私まで外に投げ出す形になってしまった。
壊れたフェンスの一部は完全に外れ、校庭の水道をめがけて派手に音を立てて落下した。
「きゃあ!」
「ちょ……ど、どうしよう!」
ここまで想定していなかったのか、彼女たちは悲鳴を上げ、すすり泣く。
そんなことしているなら助けて欲しい。
「な、なんでこんなことに……?」
「知らないわよ! あの子がここに叩きつけろって言ったから……!」
あの子?
「ちょっと待って! あの子って……」
「に、逃げよう! 私達関係ないもん!」
「そうね……! 言われてやっただけだもの! 関係ない!」
怯えた彼女たちは、バラバラに校舎の中へ戻っていく。
助けなくてもいいから、誰か呼んできてくれたっていいのに!
悪態をついている間にも、壊れたフェンスは校舎の外側へ傾いていく。
身動きが取れない私は、宙に浮いた足をバタバタさせることしかできない。
「……っ誰か! 誰か助けて!」
校内の生徒や先生じゃなくても、偶然見かけた通りすがりの人が学校に連絡してくれるかもしれない。
一か八か、腹の底から叫んだ。冬の冷たい風を吸い込めば、鼻がツンと痛む。
しかし、何度叫んでみても誰かが来る気配はなかった。
腕の力もそろそろ限界、フェンスもほぼ傾いてきて、落ちるのも時間の問題だ。
空でも飛べたらよかったのに、なんてふざけたことを考え始めていると、足場のないはずの場所から声が聞こえた。
『助けてやろっか?』
聞き慣れた低い声。
見ると、袴田くんが壊れたフェンスの上にさも平然と立っていた。
「ちょっ……いつから!?」
『うるせぇな。質問に答えろよ』
「さっさと助けて!」
『はいはい。……ったく、教室でバカ騒ぎが始まったと思ったら、こんなところにいるし』
そう言いながら一歩ずつ、フェンスの上をゆっくり歩きながら彼が近づいてくる。
彼が来る前はあんなに揺れていたのに、今はびくともしない。
「……もしかして捜してたの?」
『だってお前いないと喧嘩できねぇじゃん。……ってかなに、自分でこれやったの?』
ニヤニヤしながら、フェンスを指さして問う。
「本気でそう思ってるなら、とんだ変人だよ、私」
『だよな。お前、地味でもしぶとく生きるタイプだもんな。……あーあ。フェンスが食い込んでらぁ。破いたほうが早いか?』
「なるべく最小限にしてもらってもいいかな……!」
袴田くんは私の後ろにまわり、制服に引っかかっているフェンスを外していく。多少ビリビリと破く音が聞こえてくるが、この際仕方がない。
『……でもまぁ、お前をこっちに連れてくるのもアリだったな』
「へ?」
『だって、隣の席でひたすら黙ってた奴が、こんなに無鉄砲で面白いなんて知らなかったから。死んで損したって、初めて思った』
いつになく優しい声色に、思わず振り返ろうとすると、突然袴田くんに抱えられた。
「な、なに!?」
『フェンスを外した。もう楽にしていいぞ』
「無理無理無理! 足浮いてるもん!」
『じゃあ落ちるか?』
「意味がわからないんですけど!?」
本当に何言ってんのコイツ!?
俗にいうお姫様抱っこ状態の私は、袴田くんが手を離せば真っ逆さまに落ちてしまう。
こんな状態で楽にしろと言われてもどうすればいいのかわからない。
『悪いようにはしねぇから、大人しくしてろ』
……ってことは?
「――っやば……!」
危機感で体を起こそうとした瞬間、フェンスに取り付けられていた金具が外れ、大きく揺れて校舎の外へ倒れ始めた。
咄嗟にまだしっかり固定されている隣のフェンスを掴む。
しかし、切れたフェンスの尖った部分が制服に引っかかって、勢いで私まで外に投げ出す形になってしまった。
壊れたフェンスの一部は完全に外れ、校庭の水道をめがけて派手に音を立てて落下した。
「きゃあ!」
「ちょ……ど、どうしよう!」
ここまで想定していなかったのか、彼女たちは悲鳴を上げ、すすり泣く。
そんなことしているなら助けて欲しい。
「な、なんでこんなことに……?」
「知らないわよ! あの子がここに叩きつけろって言ったから……!」
あの子?
「ちょっと待って! あの子って……」
「に、逃げよう! 私達関係ないもん!」
「そうね……! 言われてやっただけだもの! 関係ない!」
怯えた彼女たちは、バラバラに校舎の中へ戻っていく。
助けなくてもいいから、誰か呼んできてくれたっていいのに!
悪態をついている間にも、壊れたフェンスは校舎の外側へ傾いていく。
身動きが取れない私は、宙に浮いた足をバタバタさせることしかできない。
「……っ誰か! 誰か助けて!」
校内の生徒や先生じゃなくても、偶然見かけた通りすがりの人が学校に連絡してくれるかもしれない。
一か八か、腹の底から叫んだ。冬の冷たい風を吸い込めば、鼻がツンと痛む。
しかし、何度叫んでみても誰かが来る気配はなかった。
腕の力もそろそろ限界、フェンスもほぼ傾いてきて、落ちるのも時間の問題だ。
空でも飛べたらよかったのに、なんてふざけたことを考え始めていると、足場のないはずの場所から声が聞こえた。
『助けてやろっか?』
聞き慣れた低い声。
見ると、袴田くんが壊れたフェンスの上にさも平然と立っていた。
「ちょっ……いつから!?」
『うるせぇな。質問に答えろよ』
「さっさと助けて!」
『はいはい。……ったく、教室でバカ騒ぎが始まったと思ったら、こんなところにいるし』
そう言いながら一歩ずつ、フェンスの上をゆっくり歩きながら彼が近づいてくる。
彼が来る前はあんなに揺れていたのに、今はびくともしない。
「……もしかして捜してたの?」
『だってお前いないと喧嘩できねぇじゃん。……ってかなに、自分でこれやったの?』
ニヤニヤしながら、フェンスを指さして問う。
「本気でそう思ってるなら、とんだ変人だよ、私」
『だよな。お前、地味でもしぶとく生きるタイプだもんな。……あーあ。フェンスが食い込んでらぁ。破いたほうが早いか?』
「なるべく最小限にしてもらってもいいかな……!」
袴田くんは私の後ろにまわり、制服に引っかかっているフェンスを外していく。多少ビリビリと破く音が聞こえてくるが、この際仕方がない。
『……でもまぁ、お前をこっちに連れてくるのもアリだったな』
「へ?」
『だって、隣の席でひたすら黙ってた奴が、こんなに無鉄砲で面白いなんて知らなかったから。死んで損したって、初めて思った』
いつになく優しい声色に、思わず振り返ろうとすると、突然袴田くんに抱えられた。
「な、なに!?」
『フェンスを外した。もう楽にしていいぞ』
「無理無理無理! 足浮いてるもん!」
『じゃあ落ちるか?』
「意味がわからないんですけど!?」
本当に何言ってんのコイツ!?
俗にいうお姫様抱っこ状態の私は、袴田くんが手を離せば真っ逆さまに落ちてしまう。
こんな状態で楽にしろと言われてもどうすればいいのかわからない。
『悪いようにはしねぇから、大人しくしてろ』