すると突然、屋上の扉が大きな音を立てて開かれると、女子生徒が数人、校舎から出てきた。

 彼女たちは辺りを見回して私を見つけると、嬉しそうに笑みを浮かべて近づいてくる。

「あーっ! いたいた!」
「もうっどこ行ってたのー? 探したんだからー」
「え? あ、あの」

 校則違反ギリギリのメイクをした彼女たちは、私の両腕を掴んで立たせると、引きずるようにして歩かせる。

 もちろん、私は彼女たちのことは誰も知らない。

 そしてリーダー格の女子の前に連れてくると、二人は掴んだ手を更に力を強めた。

「いっ……!? 急になにすんの……?」
「心当たりない? アンタ、岸谷と最近仲良いでしょ?」

 ……はい?

「私達ね、誰が岸谷くんを奪うか賭けてたの。彼、かっこいいでしょう? 喧嘩とかしてるって聞くけど、ちょっと危ない方が男としてかっこいいって思っちゃって!」
「そしたらこの間、岸谷がアンタを抱しめてるの見ちゃったんだよねー。他校の不良と喧嘩した後さ、覚えてない?」
「ちゃんと証拠も残ってるからね! ってか耳元で話すとか、ホント生意気!」
「アンタみたいな子がね、岸谷とつり合うわけないの。さっさと別れてくれない?」

 さっきから次々と聞こえてくるのは、岸谷くんの話ばかり。

 抱しめられた?
 耳元で話された?
 つり合わないから別れろ?

「…………」

 絶句。

「なによ、何か文句でもある?」
「……いや、ちょっと……くはは」

 自然に笑いが零れた。両腕を掴んでいる二人には聞こえたようで、少しだけ力が緩んだ。

「な、なによ! 気持ち悪いわね!」
「……ううん、ちょっとおかしくて」
「は?」

 約一ヵ月、袴田くんが体を乗っていたからだろうか、口の悪さも笑い方も似てしまったらしい。

「わかんないの? だから岸谷くんに見向きもされないんだよ、バーカ」

 バチン!と、屋上に鈍い音が響いた。
 なるべく丁寧に、逆なでしない程度の否定をしたのが悪かったらしく、リーダー格の女子が顔を真っ赤にして、私の頬を思い切り叩いた。

「自分がよく彼と話してるからって、いい気にならないでくれる!?」
「はぁ? 勘違いしてんのそっちでしょ。そんなに気を引きたければ、小細工しないで堂々としていなよ!」

 頬がじんじんと痛み、口の中に血の味が広がる。
 いつもならすぐ逃げているのに、こんなに堂々としている自分は初めてかもしれない。

「さっさと離して。私、関係ないから」

 私の両腕を掴んでいる女子も怯えている。リーダー格の彼女の指示で腕を掴んでいるのだろうが、怯えて徐々に力が弱まっていた。

「――っ煩い! アンタが岸谷くんを狙うから悪いんでしょ!」
「狙う? 誰がそんなこと……」
「もういいわ!」

 彼女は震えながらも、勢いで私の両肩を押して、すぐ近くのフェンスに叩きつける。
 両腕は解放されたものの、反動でフェンスがギシギシとしなる音がした。
 
 ……ちょっと待って。
 フェンスってこんなに不安定なものだっけ?