私の声を遮ったのは、駆け寄ってくる吉川さんの声だった。

 額にうっすらと汗を浮かべて黒髪を耳にかけた彼女は爽やかで、どこかきれいに見えた。
 確か彼女は部活中のはずだ。その証拠に、金管楽器を首から下げるストラップをつけたままだった。

「井浦さん、さっきの人たち大丈夫だった? 声が校舎の中まで聞こえてきたから心配で……」
「もしかして、それで来てくれたの? 部活は?」
「井浦さんの方が大事だもん」

 吉川さんはそう言って、優しく微笑む。あんなにイライラしていたのが一瞬で和やかになった。

「そう言えば、あれから岸谷くんとは大丈夫?」
「え? 何が?」
「何がって……付きまとわれてて困ってたって……」

 何のことかわかっていないのか、キョトンととぼけた顔をするも、すぐニッコリ微笑んだ。

「ああ、うん。大丈夫。最近は何もないから安心して。私の心配をしてくれるなんて、井浦さんは優しいね」
「……そ、そっか」

 なんだろう、この違和感。一瞬、彼女の顔が歪んで見えた気がした。

「それより、聞きたいことがあるんだけど……」

 吉川さんは耳元に近づいて言った。

「袴田くんって、どんな人だった?」
「――へ?」

 突然袴田くんの名前が出てきて、思わず変な声が出た。
 私が動揺したのを察したのか、彼女は私の手をそっと包んで更に続けた。

「井浦さん、袴田くんの隣の席だったでしょう? だから彼ってどんな生活をしてたのかなって気になってたの。ほら、一匹狼みたいなところがあったから、喧嘩が強いくらいしかわからなくて。井浦さんだったら知ってるでしょう? 彼のこと、私に教えて?」

 ――私達、友達でしょう?

「――っ!?」

 ぞっとした。