「課長…?」

「あ…いや…すまない…それは…やめておいてくれ…」

どうしたの?

そんな…辛そうな顔、見せないで…

嫌でも想像してしまうじゃないの…

あなたの…過去を…。

「じゃあ…こちらは?」

私は何の変哲もないマグカップを取り出して課長に見せた。

「うん…それは…大丈夫だ」

何が大丈夫なの?

このカップは彼女を思い出させないの?

そんなに辛いのなら何故…

彼女との思い出の品を全て処分しなかったの?

そんな疑問を突き付けられる筈もない。

仕方なく呑み込んで、私はリビングのソファに座った。

課長は既にさっきまでの憂いをすっかり消していつもの課長に戻っている。

「それで…落合の事だが…。彼が悪戯電話の犯人であるにせよ、ないにせよ、担当を外れた方がよくないか?」

それは…願ったり叶ったりだわ…。

どのみち私はあの熊の顔を見たくはないの…。

こんなに私の心をときめかせるあなたの顔とは比べものにもならない。

腹立たしさを隠して営業スマイルを作るのも、もう限界。

「それが可能でしたら…お願いしたいです…」

「わかった。その方向で考える。ただ、あそこはうちの得意先の中でも上得意に位置づけられている。君の代わりに他の者を担当させるとなると、その者の担当を一社持つ事になる」

「それは当然です」

「他には…変な担当者はいないのか?」

「はい…他は問題ありません…」

「それでも警戒だけはしておいた方がいい。今は大丈夫でも今後も大丈夫とは限らんからな…」

課長はそう言ってコーヒーを一口飲んだ。

カップを手にする仕草さえ、素敵過ぎて見惚れてしまう。

これから先の未来にあなたのその長い指が触れるのは…

どんな女性(ひと)