「すまんな。俺は紅茶を飲まないからすっかり忘れてたよ」

…あなたが飲まないのに…

何故紅茶が置いてあるの?

しかもそんなに古くなってしまって…

一体誰が紅茶を飲んでいたの?

聞きたい気持ちとそうじゃない気持ちが錯綜する。

でも私は前者を選ぶ。

「あの…課長…恋人の為に置いていらっしゃるのでは?」

思ってもみなかった私の発言に一瞬課長の表情が曇った。

「…いや…そういう訳じゃ…ない…」

「恋人はいらっしゃらないのですか?」

私ったら何を言ってるの?

…唐突すぎるでしょう?

でも…止められないの…。

この口も…、私のあなたへの想いも…。

「…いないよ…」

安堵する一方で、憂いを含んだ課長の表情に心が乱れる。

どうして… そんなに辛そうなの?

誰を… 思い出しているの?

「私が淹れます」

「え?」

「紅茶。私が淹れます。慣れてますので。課長はコーヒーですか?」

「あ…ああ、俺はインスタントでいい」

「じゃあお湯を沸かしましょうね」