そんな私の邪な感情に気付く筈もなく、課長は通りに出てタクシーを拾った。

乗り込んだ課長は運転手さんに「公園かどこかありますか?」と尋ねている。

「公園ねぇ…。すぐそこにあるにはあるけど…ほんとにちっちゃいよ?ちょっと距離があるけど、大きな公園ならそうだな…十キロ圏内にあるけど…」

「じゃあ、そこに…」

課長が言いかけたのを咄嗟に阻む。

「あの!課長の…ご自宅に…」

「えっ!?」

「いけませんか…?外だと…気分が悪くなりそうで…」

また嘘をつく。ごめんなさい、神様…許してください…。

「…わかった…。運転手さん、申し訳ない。行き先は…」

課長はそう言って行き先を自宅に変更してくれた。

「すみません…わがまま言って…」

「いいんだ。頼ってくれと言ったばかりだからな」

ほんのりと香るコロンの匂い…

今まで気付かなかったけれど、着ているスーツや腕時計の、なんとセンスの良い事か…。

靴もピカピカに磨かれていて…

あっ… 

私ったら…自分の感情にかまけて…とても大切な事を忘れていたわ…。

課長には…恋人がいるかもしれない…。

そんな単純な事に…どうして今まで気付かなかったのかしら…。