課長を駅まで送る道すがら、私は課長に謝った。

「課長…本当に申し訳ありません…、お忙しいのに私の個人的な話に巻き込んでしまって…」

「まだそんな事言ってるのか?個人的な事なんかじゃない。仕事の延長線上で発生した事だ。君が気に病む必要はない」

「でも…仕事以外の事で課長のお手を煩わせてしまって…」

「君もしつこいな。これも俺の仕事の一環だ」

課長はそう言って笑顔を見せた。

その爽やかな笑顔と、目尻に軽く出来た皺にドキリとする。

「ありがとうございます…お言葉に甘えて…頼らせて頂きます…」

「うん、そうしてくれ。その為に上司はいるんだからな」

上司…。

そうよね、上司だから部下のピンチを助ける。

ただそれだけの理由で課長は私の為に骨を折ろうとしてくれている。

そんな事はわかっているわ…。

わかっているけれど…

どうしたのかしら?

この…なんとも言えない寂しい感情は…

黙り込む私を気にする様子もなく課長は続けた。

「上杉くん…、とりあえず個人の携帯を変えないか?このままだと相変わらず変な電話がかかり続けるだろう?」

「携帯を?」

「難しいか?」

「いえ…そんな事は…ありません…」

「それと…会社はしばらく休むか?君が辛いならそれも考えてもらいたい」

会社を休む…。

そこまでしんどい訳ではないわ…。

それに…休んだら…あなたに会えないし…

ああ…私ったら…何を考えているの!

上司である課長にこんな気持ち…

今まで…

課長として尊敬すらしていなかった私が

その尊敬という感情よりも強く、熱く、自覚し始めたこの気持ちは…

何と名付ければいいのだろう?