「なんて言ってたんでしょうか?」

「…ああ…その…君を担当から外さないでくれ、と…。それを聞いて最初は業務上担当者がいなくなると困るのかと思ってな。代わりの者を行かせるから迷惑はかけないと言ったんだ。そしたら…彼は…君を変えないで欲しいと…」

熊め…。

仕事上の相手に向かって恥ずかしげもなく、個人的な希望をするなんて…

破廉恥この上ないわ!

兄が正鵠を射たとばかりに言う。

「ほらな。俺の言った通りだ。やっぱり綾の勘違いなんかじゃなかったんだよ」

嫌だわ…。

あんな(けだもの)に好かれるだなんて…

「お兄さん、念のため少し調べてみようと思います。もしかしたら、他のルートで上杉くんの携帯番号が漏れたかもしれない。ちゃんと調べてまずそっちをシロにした方がいいと思うんですが…」

「かなり可能性は低いと思いますが、ゼロじゃないですもんね。調べて何も出なければ、それはそれで真犯人を絞り込める」

「はい…。部下を疑うのは穏やかじゃありませんが、そうも言っていられませんので…」

「宜しくお願いします」

兄は安心している様子だけれど、私は複雑だった。

私の為に部下の皆を疑わなければいけなくなってしまった事実に打ちのめされそうになる…。

いくら上司といっても進んでやりたい行為ではないだろうに。

聞かれた人の中には気分を害する人だっているかもしれない。

課長に信頼されていないと、感じる人だっているかもしれない。

そうなれば課長は立場が悪くなってしまうのに…

不安な面持ちで押し黙っている私に課長が言った。

「上杉くん…。不安かもしれないが…大丈夫だ。皆にはどう思われてもいい。君の不安を解消するのが最優先だ」

あ…

私の感情を寸時に読み取って…

更に勇気付けようとまでしてくれて…

自分が犠牲になってまで…

私の為に動くというの?

何故…

そこまで

するの?