「綾…ソイツに…課長にイタ電の件、相談してみろよ」

兄の唐突な意見に面食らう。

「えぇっ?」

「なんとなく…大丈夫そうな気がする。ソイツなら…」

絶大な信頼を寄せている兄が言う事。

いつも深く人を観察している。

本人に会わなくても私の話の中から導き出した結論がそうであるならば…

兄の言う通りにしてみるのもいいかもしれない。

「お兄さんがそこまで言うなら…。課長に相談してみてもいいかもしれないけれど…」

「早い方がいいと思うぞ」

確かに時既に遅し…

まではいってないかもしれないけれど、悩んで何も動けないまま時間だけは過ぎている。

このまま何事もなく…なんて事、どんなに贔屓目に見てもあり得ないだろう。

下手をすれば事態は悪化するという可能性すらある。

いよいよもって結論を出さなければならない時が来たのだ。

「そう…ね…。相談してみるわ…」

やっとの事で兄に告げる。

今回の一件で前よりは、課長に対する感情も幾分マシにはなっているから。

上手く話せるかもしれない…。

その時、私の携帯が着信を知らせた。

この着信音…会社関係だわ…。

慌てて携帯を取り出す。

「課長…」

画面に映し出された発信者を見て呟いた私に兄が言った。

「出てみろ。で、話の流れで相談、してみろよ」

「そ、そうね…」

今の今まで話題に上っていた当人からの電話に戸惑いがない訳ではなかったけれど、とにかく早く出なきゃね…。

「はい…上杉です…」

『休みにすまない。今いいか?』

「はい」

『会社に電話をもらっていたようだが、留守をしていて申し訳なかった。聞いた所によると、退院したんだな?』

課長の声はまたもや切羽詰まっているように聞こえた。