兄と一緒に生活できる事はありがたかった。

昔話に花を咲かせたり兄の語る夢の話を聞いているだけで鬱々とした心の雲が晴れていくようだった。

兄は私の一番の理解者だ。

昔も今も…それは変わらない。

「ところで上司には相談してみたのか?」

「いえ…それが…まだなの」

「早い方がいいに決まってるだろ?」

「そうなんだけど…」

「綾が言いにくいなら俺が言おうか?」

「えっ?お兄さんが?」

「そうだ。お前は自意識過剰だと心配してるみたいだが、俺から見ても絶対おかしいと思う。家族が言ってるから変わりないかもしれないが、本人が言うよりも効果があるんじゃないか?」

「そう…かしら…」

「綾…、お前がどうしてそこまで頑なに上司に相談できないのかわからないけどな。このままじゃヤバいぞ?」

それは…

兄の言う事は図星過ぎて何も言えなかった。

あの夥しい数の着信を見ても、相手がエスカレートしているのは明確な事実。

「早速明日にでも相談するんだ。わかったな?」

明日…。
そんな時間があるかしら…?

課長も伊藤さんも…
朝から晩まで駆け回っているような状況だっていうのに…。

でも兄にこれ以上心配を掛ける訳にはいかなかった。

「わかったわ…。出来れば明日…してみるわ…」