「それと見合いの話は、無視していい。勝手に綾の人生をどうこうしようなんていくら親でもやっちゃいけない」

「そうよね。私も突っぱね続けるつもりよ」

「綾…とりあえず今日のところはいったんうちに帰れ。で、明日出勤する時に当面の荷物を持って、仕事が終わったらここに来い」

「え?でも…」

「こんなに狭いトコだけど、俺がいるし…、うちにいると思うと心配だから…」

兄の心遣いが嬉しかった。

「そうね…。しばらくご厄介になろうかしら…」

「それがいい」

私は久しぶりに晴れ晴れとした気持ちになっていた。

兄は朝からバイトだけれど夜にはうちに戻るという。

それならば一人不安な気持ちを抱えて過ごす事もないだろう。

私は兄の言う通り、いったんうちに帰った。

父が何か言いたげな表情で私を見ていたけれど、素知らぬ振りをして自室に戻った。

ボストンバッグに当面必要な荷物を詰め、翌朝両親に気付かれないよういつもより早く出勤した。