「無言電話か…」

「ええ…最近では無言電話から少し変わったの。ため息とか…変な言葉とか…小さいけれど聞こえてくるの…」

兄は少し考えるような素振りを見せる。

「綾…おそらくそれはお前の勘違いじゃなくて…ソイツは意図的にお前に掛けて来ているんだと思う。誰か適当に選んで、ではなくて、あくまでも綾だとわかっていて、だ。怖いと思うけど一人で抱えていても解決しない。誰か信頼できる会社の人間に相談した方がいい」

会社の人…

それは道理かもしれないけれど…

「そうは…思ってるんだけど…」

「いないのか?」

「いなくは…ないんだけど…」

「とにかく…いち早く相談する事だ。お前が誰にも相談してないとわかったら、犯人はもっとエスカレートしてくるかもしれないぞ?」

そうは言っても…

課長はどうしても信頼しきれない。

課長以外となれば伊藤さんしかいないけれど、彼も無理だ。

ずっと考えていたけれど結局難しいという結論に至ったのだ。

万にひとつ、相談だけしてみたとして。

彼はしっかりしているし仕事も出来る方だと思う。

だからってこういう厄介な話を聞いて助けてくれるような人かどうか

教育担当していたくせに情けないけれど、私はまだ伊藤さんという人の本質を見抜けていなかった。