少しだけ落ち着きを取り戻した私は兄に謝る。

「ごめんなさい…。お兄さん、元気そうで良かった…」

「綾は元気じゃなさそうだ。とりあえずうちに行こう。きったないアパートだけど」

「大丈夫。お兄さんがいる所ならどんなに汚くたって平気よ」

そう言った私の頭を兄はその大きな掌で撫でてくれる。

小さい頃からこうされるのが大好きだったわ…。

到着したアパートは兄の言った通りかなりの年代物だった。

階段を上がる時のギシギシという音がちょっと怖い。

一番奥の部屋のドアの前で兄は立ち止まり、鍵を開けた。

「あんまりキレイじゃないけど」

私は笑顔で兄に頷いて見せた。