商店街を通るとたくさんの人で賑わっている。

中には携帯で話をしながら歩いている若者もいる。

私は若者ではないけれど、思い切って歩きながら兄へ発信した。

『…綾?』

「お兄さん…?」

『どうした、綾。なんかあったのか?』

「お兄さん…私…」

懐かしい兄の優しい声は私の涙腺を容易に脆くする。

『綾、今どこだ?(うち)か?』

「ううん…。今は駅に近い商店街よ…」

電話の向こうで逡巡しているのか、兄はすぐに声を出さなかった。

そして聞こえてきた兄のセリフに驚く。

『綾、そのまま電車に乗ってR駅まで来い。迎えに行く』

「えっ?R駅?」

『今俺が住んでるトコの最寄り駅だ』

私は兄が自宅からさほど離れていない場所に居を構えていると知り、少し意外に思った。

心情的には少しでも実家から離れたいのではないかと決め付けていた。

「お兄さん…案外近くにいたのね…」

『ああ…最初は遠くに行こうと思ったんだけどな。土地勘がないと色々不便だし、結局実家と同じ沿線のトコに落ち着いたんだ。親父の通勤とは反対方向にする事だけは譲れなかった。偶然でも会いたくないし…。それに親父だって、まさか俺がこんなに近くにいるとは思ってないだろ?返ってその方がいいんじゃないかってな』

「灯台もと暗しね。私も驚いたくらいだから、きっとお父さんは気付かないと思うわ」

『それが狙いさ』

兄はそう言って笑った。

『じゃあ綾、気をつけてな』

「うん。後でね」