そんな私たちの様子を部屋の隅から見守っていた母が、そばにやってくる。

「綾子…。お父さんにあそこまでは…言い過ぎよ」

今まで目立った反抗をして来なかった私をずっと見てきた母がそう思うのは理解出来る。

でも父の言いなりの人形のようなままではいたくなかった。

「お母さん…。いつかは言わなきゃいけないと思っていたのよ。今回がいい機会だったわ。お母さんには悪いけど、私、結婚する気も仕事辞める気もないから」

「あなたがそこまで頑なな態度を崩さないなら…お父さんも強硬手段に出るかもしれないわね…」

「強硬手段?」

「そう…。あの人の性格はあなたもよく知ってるでしょう?家長に逆らうような娘は容赦なく追い出す。そういう人じゃないの…」

そうだったわ…。

確かに父は権力を誇示できない時はそういう強引なやり方で私たち家族を従わせてきた人。

優しかった兄も…

そんな父に嫌気が差して、とうの昔に縁を切ってしまったのだったわ…。