「お父さん、この際だから言わせてもらうわ。私はお母さんみたいに家に収まるタイプじゃないの。ずっと社会と繋がっていたいし、その為には仕事は不可欠だと考えているわ」

「生意気な…。たかがビールの営業くらいで知ったふうな事を言うな。何が社会と繋がっていたい、だ。所詮お前のやっている事は井の中の蛙大海を知らずなんだ」

「確かに人事部にいた時はそうだったかもしれないわ。深窓の令嬢のように温室で大切に育てられた花のように、守られていたと思う。でも、営業部に行ってみてわかったわ。今までの私はなんて世間知らずだったんだろうって。色んなお店の色んな年齢層の人、色んな立場の人たちと関わるって大変だけど、すごく勉強になるの。やりがいを感じているの」

「じゃあなにか。お前は一生独身で仕事だけして生きていくつもりなのか？」

「別にそうだと決めつけている訳ではないわ。縁があれば結婚も考えるでしょう。でもそれは今じゃないと言ってるんです。今は仕事を頑張りたいの」

「勝手にしろ！」

父は激昂し、持っていた見合い写真らしきものを床に投げつけ荒々しく部屋を出て行った。