その日は仕事上のトラブルもなく、ほぼ定時に上がる事が出来た。
綾子はまだ残っていたが事務的に「ではお先に」とだけ言ってフロアを後にした。

そういえば…
これから訪ねるとなると夕食の時間に重なってしまう事が気に掛かる。
どこかで食事を摂りながら話しても良かったのだが、自宅に招いてもらったのだから何か買って行こうと思いつく。

駅前のデパートに寄り、惣菜売り場で少しだけ高級な弁当を買い込んで電車に乗った。

駅に到着した俺は早歩きで兄のアパートへ急ぐ。
久しぶりに見たアパートは相変わらず今にも壊れそうな代物だった。
階段を静かに上がり、兄の部屋の前で呼び鈴を押した。

「安曇野さん。いらっしゃい」

「すっかり失礼してしまって…」

「いいですって!とりあえず上がって下さい。狭くて汚いトコですけど」

「お邪魔します…」