程なくして戻って来た桜井は椅子に座り、徐に口を開く。

「黒猫ちゃんの言う通りよ…。成田くんの…気持ちが痛い程伝わって来たわ…」

「やっぱり…」

「でもね、黒猫ちゃん。あたしにはそれが辛かったの…。こんな女とっとと切り捨てて、自分に似合いの(ひと)を見つけて欲しかった…」

「成田さんは…どう思われても自分の気持ちを偽る事が出来なかったんだと思います…。きっと彼も…何度も諦めようと努力したでしょう。でも、努力して出来る事ではなかったんです…」

「そうかもしれないわね…。アイツ、器用そうに見えて案外不器用な所があるから…」

「お前も同じだ。お前も成田と同じように器用そうに見えて不器用な所がある。似た者同士なんだよ…」

「そうかもしれないわね…。成田くんといると…妙に自分を作らなくても良かったから…」

「それは居心地が良くないのか?」

「…悪くは…なかったわ…」