「悪いけど男は愛情がなくても女を抱ける生物だと思ってるわ。だから成田くんも単に生理的原理だと思ったのよ」

そこでずっと沈黙を貫いていた綾子が言った。

「でも…女にはわかると思います…。男の人が本能だけでしているのか、愛情をもってしているのか…」

「まあ!黒猫ちゃんにしては大胆なご意見ね!」

「茶化さないでください…。恥も外聞もかなぐり捨てて言います…。男の人が愛情をもっているのは…絶対に気付きます。こんな私にもわかるんです…。桜井課長がわからない筈、ありません…」

桜井は大きくため息をつくと、バッグから小さなケースを取り出した。

「ごめんなさい。ちょっと席を外すわ」

「お前まさか逃げる気じゃないだろうな?」

「違うわ。これよ」

桜井は右手の中指と人差し指を立て、口元に持っていく。

「え?煙草か?」

俺は桜井が煙草を吸うと知り、驚きを禁じ得なかった。

「何、驚いてるの?女が一人で戦う為にはね、これくらい必要なのよ」

「あ…ああ、わかった…」

桜井はその小さなケースを持って部屋から出て行った。