俺が言うとベルボーイは「ご案内致します」と言って先んじて中へ入った。

吹き抜け天井のロビーは広くて敷き詰められた絨毯は靴音を消すほど深い。
いかにも高級ホテルといった貫禄がある。
ロビーに設置されたソファに、見た事のある後ろ姿が目に入った。

俺は隣の綾子に頷きかけ二人で桜井に近づく。
絨毯が深い為見事に俺たちの靴音はかき消され、すぐ傍に寄るまで桜井は全く俺たちに気付かなかった。

「お待たせ…」

静かに声を掛けると慌てて桜井が振り向いた。
と同時に綾子の姿を認識し、眉間に皺が寄った。

「…どうして…あなたが一緒なの…?」

さすがに桜井もこの格式高いホテルで大声は不似合いだとわかっているようだ。
コイツにしては珍しく押し殺した声で綾子に尋ねている。
その問いには綾子の代わりに俺が答えてやる。