「もぅ…直人ったら…運転手さんに聞こえるじゃないの…」

すると運転手さんが言った。

「なんも聞こえまへんて。あんじょうやりよし」

あんじょう?

俺は運転手の言った意味がよくわからなかったが、悪い意味ではないだろうとお気楽に考えた。

今から対峙する桜井に、俺たちの堂々たる風格を見せつける。
それまではしばしリラックスしておこうと思っていた。

タクシーがホテルの前へつけると、ベルボーイが颯爽とエスコートにやってきた。
さすが老舗高級ホテルだ。
ベルボーイの立ち居振る舞いも無駄がなく、鮮やかこの上ない。
俺が降りるとすぐさま俺にエスコート役をチェンジする所も心憎い。

「ロビーで待ち合わせをしています」