目の前で見事な手捌きを見せ、アッという間に焼き上がっていく。

「はい。おまちどおさま!熱いから気ィつけてな」

俺は鉄板に乗ったままのお好み焼きを箸で取ろうとした。
するとオバチャンが慌てて俺を止める。

「あかん、あかん!箸なんか使(つこ)たら崩れてまうよって、そのテコ使うんや」

「テコ?」

言われてみれば小さなテコが添えてある。
これを使うとは?

「ちっちょお切ってな、それに乗せて食べんねん」

「なるほど…」

綾子はオバチャンに言われた通りテコに乗せ、フウフウと冷ましながら口に入れた。

「美味しいっ!」

「せやろ。箸で食べるよりそれで食べた方が(うも)う感じるやろ?」

「はい!」

「オネエチャンはちゃんとわかってはるな。オニイチャンもはよ、食べてみ」

俺も綾子の見よう見まねでテコに乗せ、冷ましながら食べてみる。

「旨い…」

「良かったわ。ぎょうさん食べてな」

食べ始めると止まらない。
瞬く間に平らげてしまった。

その後、どて焼き、ネギ焼き、ホルモン焼き等を頼み、満腹になって店を出た。