いつものように綾子が勢いづいてくるとマズイと思った俺は、伊藤くんに営業のスキルを生かして彼女の親を説得してみてはどうかと勧めた。

誠実に対応する事は勿論だが、ある程度相手に合わせる事も必要だからだ。

伊藤くんはそれならなんとかなるかもしれないと希望を見出してくれたようだった。
綾子が伊藤くんに以前より男らしくなったと言うと、本人はそんなつもりはなかったのか意外そうにしている。

男はここぞという時に決めるという狩猟本能が働く。
伊藤くんもきっと今、本能に目覚めたに違いない。
ようやく肚を決めたのか彼の目には揺るぎない闘志が沸きあがっているように見えた。

頑張れよ…
俺の二の舞になる事はないだろうが、覚悟だけはしておいて損はない。

きっと彼なら大丈夫だ。
その誠実さで真っすぐにぶつかって行け。

彼女への純粋な愛情があれば…
必ず許してもらえる。

親というものは、ある意味本人よりも相手の本質を見抜く力が備わっているのかもしれない。
だがだからこそ、本気の想いも伝わるのだと思う。

俺は心の中で伊藤くんに熱いエールを送った。