「それは…桜井の事を言っているのか？だったら誤解だ。誤解も甚だしい。俺はアイツを憎む事こそすれ、愛する事など天地がひっくり返ってもないと言い切れる。綾子と出会ってなくても…俺はアイツを選びはしない」

「彼女は違うわ。彼女はあなたと…お付き合いしてると…言っていたわ…」

「どうせそんな事だろうとは思っていた。アイツが君に何を吹き込んだのかも大抵想像がつく。アイツは君と俺の関係を見抜き、俺たちを引き離そうとした。それは本人が認めた。俺が昔、アイツに言い寄られていたのは事実だ。だが俺は一度としてアイツに靡いた事はない。それを恨んだアイツが…今回の猿芝居を諮ったんだ」

「でも…会社では見せないあなたの事をとてもよく知っていたわ…」

「そんな事は適当にいくらでも作話出来る。特に新入社員研修の時は、皆まだ社会人になった自覚が薄く、研修後は羽目を外す事もあった。勿論俺は品行方正だったぞ。でも緊張が解ければ、ちょっと砕けた姿を晒す事もあるだろう。それが同い年の同期なら猶更だ。そういう姿をアイツも見た事があったんだ。それを君に言ったに過ぎない」