彼は一言も私を責めなかった。
自分が悪いと言った。

どうしてあなたはそうなの?
そうやっていつも私を甘やかすの?
こんな…身勝手な女…早く見限りなさいよ!
あなたの愛情を受ける資格のない女なんだから…
早く私の事なんて忘れて…あなたに相応しい(ひと)と幸せになりなさいよ…。

そうじゃなければ私は…
いつまでもあなたへの思慕を捨てきれない…。

あの人が帰った後も私は…
負のエネルギーに全身を支配されていた。
どう足掻いても私たちは元には戻れない気がした。

もう、何もかも…
どうでもいいわ…。

仕事も…恋も…
生きて行く事さえも…


翌日は会社を休んだ。
今日まで桜井さんが東京(こっち)にいると知っていたから。
勝ち誇った彼女の顔を見るくらいなら、監獄の中にいる方がマシよ。

あの淫靡に光る赤い唇が…
私に対する嘲りの笑みを浮かべるのを…
見たくなんてない。

何をするのも億劫でダラダラとベッドに横になったまま過ごした。
時折微睡んでは、夢を見る。
夢の中で微笑むあの人がどんどん小さくなってやがては消えてしまう。

そんな夢ばかりを見た。

それは夢ではなく、現実を示唆しているようで…
私は目を覚ますのが恐ろしくなった…。