どのくらいの時間そうしていただろう。
私は夢の中を彷徨うように、虚ろな気分だった。
朦朧とし始める意識を現実の世界に引き戻したのは聞きなれたインターホンの音だった。

既に真夜中近いこんな時間に…
誰が来たというのだろう。

トントントンと勢いよく階段を駆け上がる音が聞こえたかと思うと、部屋のドアがノックされた。

誰?
私を救ってくれる誰かが来てくれたの?
思う間もなくドアは開かれ、突然私の体は温かさで包まれた。

この香り…
どうして?
どうして…あの人がここに?

「綾子…すまない…」

私は混乱する頭で必死に現実と向き合った。

「離して…」

「嫌だ!離さない!」

「離してッ!」

全力であの人の腕を振りほどく。

「綾子…話を…聞いてくれ…」

「聞きたくない…」

「誤解だ、綾子。アイツの言う事は信じられるのに俺の言う事は信じられないのか?」

懐かしい愛しい声に心が叫び出しそうになる…。
でも私の口から出た言葉は心とは似ても似つかぬ残酷な言葉…。

「聞きたくないって言ってるでしょう!出て行って!顔も見たくないの!」

「どんなに君が俺を疎ましく思おうとも、俺の気持ちは変わらない…。今でも綾子を愛している…。誰よりも…強く、深く…」