それからどうやって家(うち)まで帰り着いたのか…
覚えていない…。

帰宅した私を出迎えた母は、私の顔を見て一瞬その表情が時を止めたように固まった。

「お帰りなさい…」

母はそう言っただけでそれ以上何も追求しては来なかった。
私は母に返事もせずに自室へと籠った。
父がドア越しに声を掛けて来たが、何も言ってあげる事が出来なかった。

服も着替えず、鞄を放り投げたまま、私はベッドに突っ伏してただ泣きじゃくる。
その声は当然両親にも聞こえているだろう。
でも…どうしても止められなかった。

しばらく号泣していたが、そのうち嗚咽に変わった。
とめどなく溢れて来る涙が、そっくりそのままあの人への想いまで綺麗に流して消してくれればいいのに…
そうすれば私は新しい私になれるのに…

桜井さんの言うように、あの人以外の男の人を好きになれたらどんなにか楽だろう。
人を愛するという事がこんなにも苦しく、切ないものだなんて知らなかった…。
どうしたらあの人を忘れる事が出来るのか、誰か教えて…

お願い…私を…
悲しみの淵から掬い上げて…